これらを「おもしろさ」という観点で見た場合、テーマのおもしろさももちろん重要ですが、どのように描くかという表現の方法もそれに劣らず重要な点です。非日常の世界を描く、多分に刺激的な絵画も悪くないのですが、何気ない日常という、さほど刺激のないモチーフの深奥に潜む人生の機微や真実をいかにおもしろく見せるかということを画家が工夫した絵画にも、広い表象世界が秘められているということができるのではないでしょうか。たとえば、私たちの喜怒哀楽という感情の世界は無限です。したがってそれをあらわそうとすれば、やはり無限の可能性があるということができるのです。
そのような視座のもと、本展では平安時代から江戸時代にかけての主に庶民の暮らしぶりや楽しみを描く風俗画を、日々の営み・労働・病・老い・死・観光・異国へのあこがれ・歌舞伎・遊び(おもに遊郭での遊楽)といった点から見たいと思います。描かれた人々の活き活きとして真剣で一生懸命なようすを見るにつけ、現代を生きる私たちは、思わず自分の日常のあり方を見つめ直したくなります。
こういう何気ない日常を、いかにていねいにそして活き活きとあらわすかに腐心した、平安時代から江戸時代までの画家の想像力と表現力を鑑賞したいと思います。