女真族の金に追われた宋王朝は、建炎元年(1127)、西湖に望む風光明媚の地臨安府(いまの浙江省杭州)に都を定めます。以来、ほぼ150年の間、江南に花開いた南宋文化は、旺盛な経済活動を背景に、固有の民族文化の大成につとめ、品格高い才知、学識をそなえて「才情雅致」を謳われた文人、士大夫層がこれを支えて、終始、詩的情趣に富んだ、内省的な傾向を保ちます。
とりわけ絵画は、個性の自由な発露としての理想主義が台頭し、優れた画人が多数輩出し、中国絵画史上特筆すべき一時期を画します。これらの絵画は現存する作品が限られ、それ自身貴重視されるものですが、幸いにもわが国には鎌倉・室町時代に舶載され、もっぱら将軍家や禅林においてながらく襲蔵されてきた画蹟が少なからず伝存します。北宋末の風流天子徽宗以下、南宋画院の李唐や馬遠、夏珪、梁楷ら、さらには宋末元初、西湖湖畔の寺院にあった牧谿、玉澗らの筆になるこうした古渡りの南宋絵画は、多く室町将軍家の画庫に収められて東山御物を称されるなど、中世以降、禅宗や茶の美意識にも支えられて、わが国観賞壇にあってもっとも高く評価され、のちの美術、文化の発達にすこぶる大きな影響を及ぼしてきました。
本展は、中世以来厳しい観賞眼の下に伝わり、今日なお第一級の評価を得るこれら南宋絵画について、旧御物1件、国宝11件、重要文化財28件を含む国内収蔵の名品に、新出・初公開の作品を併せた約70点を展観するもので、南宋絵画にのみ焦点づけた展観としてわが国では初の試みとなります。日本人の美意識形成に寄与した南宋絵画への理解を深め、あらためて中国、日本における絵画史上の意義を考える格好の機会として、皆さまの御清鑑を乞うものです。