《蘇武図》橋本雅邦 1898年
下関市立美術館蘇武は中国前漢時代の武将。『前漢書列伝』によれば、使節として赴いた匈奴に捕えられ抑留されます。野鼠を捕まえて飢えをしのぐなど辛酸をなめますが、遂に投降せず、匈奴の情報を雁を使って送り続け、19年後に解放されて忠節の士として称えられました。
この作品で蘇武は、漢王朝からの使節であることを示す旗を杖として、羊を牧しながら、岩場に腰を下ろしています。視線の先には帰ることのできない故郷があるのでしょう。そんな蘇武の心情を知ってか知らずか、羊たちも同じ方角を眺めているようです。
構成、色彩ともに作者・橋本雅邦の性格のように穏健ではありますが、描写には西洋画の写実を加味し、的確で緩みがありません。老人の鋭い眼光と引き締められた口元からは、何事にも屈しない強い意志と気迫が漂っています。