《洗礼者聖ヨハネ》ペレーアの画家 1500年頃
長崎県美術館トラルバの画家による同主題作品とポーズや持物において同様の特徴を備えた洗礼者聖ヨハネ像である。1500年頃にバレンシアで制作された。
トラルバの画家の作品に比べ、本作のヨハネは三次元的な存在感を獲得してよりモニュメンタルに表されている。また顔の表情や血管が浮き上がる手足の表現には、フランドル美術に由来する透徹したリアリズムが認められよう。地面にまばらに生えた草のような、自然の一部を抽出しはめ込んでいくディテールへの関心もまた、フランドル美術に由来する表現法で、本作の作者が15世紀後半にスペイン各地に広まったいわゆるイスパノ・フラメンコ様式の流れをしっかりと汲んでいることを明らかにしている。一方で、背景の豪華な金地装飾はバレンシア派の伝統に沿ったもので、これら二つの要素が本作において見事に結合している。
本作の作者は、バレンシアのサント・ドミンゴ修道院のために、アラゴン国王フェルナンド2世の廷臣ペドロ・デ・ペレーアが注文した祭壇衝立(1491年以降の作)の作者と同一であり、故に「ペレーアの画家」と呼びならわされる。金地装飾のパターンやアーモンド形の目が、この画家の手に特徴的な細部である。長崎の作品はバレンシアのロープ製造業者組合の礼拝堂を飾っていたことが知られており、聖人のマントから腰縄が覗いているのはそのためであろう。
日本国内に所蔵される金地背景のゴシック板絵としては質、規模とも他に類例を見ない貴重な作例である。