第36回 伊東 崇(胎内市美術館 学芸員)
阿賀町郷土資料館の阿部さんからご紹介をいただきました胎内市美術館の伊東です。
2016年に完成した小さな美術館で、集客するための派手な企画展は難しいですが、地元密着型、胎内ならではのというカラーを大切に、皆さんにやって良かったと思える様な企画展をしています。小さい故に、四季ごとにコンパクトな展覧会を開催し、美術系の展示、歴史系の展示以外にも、ハワイアンキルトとプロジェクションマッピングを融合させた企画の試みなど、色々な事に挑戦する成長中の美術館といえます。
館のもうひとつのPRポイントは、地元越後杉ブランド材の大きな梁が剥き出しになった木の温もりを感じさせる談話室です。展示を見なくても、無料で気軽に利用できる和みの空間で、大きな窓から景色を眺めながらコーヒーや紅茶を楽しむことができます。地域の方々が市民ギャラリーの空間として交流を深め、随時開催されるレザークラフトなど気軽にアートを楽しむワークショップは、予約なしでも1人でも楽しむことができます。
受付では美術館スタッフが「どちらからいらっしゃいましたか」と笑顔でお客さまにお声がけし、希望者に展示解説もしています。おかげさまで、来館者がスタッフに対して家族のように接していただくこともあります。アッとホームな雰囲気が漂い、敷居が低く、毎日通いたくなるような美術館を目指していますのでぜひお越しください。
胎内市美術館 展示解説の様子
私のおすすめミュージアム
九州国立博物館
私が次に紹介するのは福岡県太宰府市にある九州国立博物館です。東京、奈良、京都に次ぐ日本で4番目の国立博物館で、立地と建物外観の素晴らしさは国内でも類をみません。学問・文化芸術・至誠の神として広く仰がれている菅原道真公の太宰府天満宮門前町を歩いた先に、異次元へタイムスリップするような虹のトンネルがあり、虹色に輝くエレベーターで、九州国立博物館の企画展の歴史をみながら進むと、森の中に、曲線を描いた大海のようなガラス張りの巨大な美しいミュージアムが姿を現し、入館する前からワクワクします。
館内は旧石器時代から近世末期(開国)まで5つのゾーンに分けられ、「教科書よりもわかりやすく」という観点から展示がされています。また、エントランスの体験型展示室「あじっぱ」では、外国の文化を五感で楽しむ展示やワークショップが随時開催され、私が訪れた際には、バリのワヤン・クリやモンゴル模様の塗り絵、博物館実習生が作成した韓国のお面や日本の赤べこの型紙など、様々なワークショップ材料も用意され、とても参考になりました。
特別展では、これまでの国立博物館と違う「日本文化の形成をアジア的観点から捉える」というコンセプトから、日本で育んできた思想や美術を新たな視点で見つめなおす企画がされています。次回登場する今井涼子さんが2021年に担当され、古事記の神話をテーマにした特別展「海幸山幸 祈りと恵の風景」にもその考えが反映され、私もそうですが、身近にある山と海について思いを巡らせ、自分なりの海幸・山幸を探すきっけとなりました。
帰りに立ち寄ったミュージアムショップでは魅力的なオリジナルグッズが多くみられ、私はそこで装飾古墳の模様が入ったオシャレな野帳を購入し、現在も使用しています。
九州国立博物館 外観
九州国立博物館 文化交流展示室