第32回 三好清超(飛騨みやがわ考古民俗館 学芸員)
私は、八尾市立しおんじま古墳学習館の福田館長よりご紹介いただきました、飛驒みやがわ考古民俗館・石棒クラブの三好清超と申します。
飛騨みやがわ考古民俗館は、岐阜県最北端のミュージアムで、飛騨市に所在します。飛騨市は、面積792k㎡のうち93%が森林、市域の大半が特別豪雪地帯、人口は2万3千人を切り、高齢化率が39%、いわゆる「人口減少先進地」です。このような小規模自治体で、国指定文化財を含む民俗資料2万点、考古資料5万点を収蔵展示するのが飛騨みやがわ考古民俗館です。令和4年現在、開館日年間30日、固定電話なしという状況です。
そんな当館で、「石棒をはじめとした文化財の活用を通じて、未来の新しいミュージアムの姿を創り出す。また、飛騨市や日本全国、そして世界の人に幸せを届ける」というmissionに基づいて活動するのが石棒クラブです。
石棒クラブは、全国初のオンラインツアー、縄文時代の祈りの装具である石棒をほぼ毎日インスタグラムに投稿する一日一石棒、資料の3Dデータ化を一般参加で実施してきました。その活動の結果、令和4年は直近15年で最高の入館者数となりました。まずはインターネットで存在を知ってもらい、次に来館の上で資料の本質的価値に触れる活動を行ってもらい、そうして仲間を増やし続けたいと考えています。
飛騨みやがわ考古民俗館 飛騨みやがわ考古民俗館で2022年7月30~31日に実施した3D合宿の様子 岐阜県重要文化財「塩屋金清神社遺跡出土品」
私のおすすめミュージアム
朝日町まいぶんKAN
今回ご紹介するミュージアムは、朝日町埋蔵文化財保存活用施設まいぶんKANです。富山県の最東端・新潟県境の朝日町に所在します。私がこのミュージアムの存在を知り訪問したいと思ったきっかけは、展示替えの度に拝見するポスターでした。ありきたりな契機ですが、担当学芸員の想いが溢れていたのです。
まいぶんKANの展示室は一室です。つまり毎回企画展です。それを一人の学芸員が切り盛りしています。限られたスペースを最大限活用すべく、展示ケース・展示棚が並びます。かと言って窮屈感はありません。収蔵展示資料は、境A遺跡出土品・不動堂遺跡出土品など、縄文時代を語るうえで欠かせない資料群が中心です。境A遺跡出土品は、ヒスイの玉製品や蛇紋岩製の磨製石器を製作していた遺跡として知られています。古墳時代には、ヒスイの勾玉等を製作した浜山玉つくり遺跡もあります。ヒスイや蛇紋岩という地域資源に基づいて営まれた遺跡出土の考古資料です。企画展のテーマに沿った資料が選ばれ、毎回異なる資料を見学することができます。
そのような中、私が特に注目するのは、考古資料の調査研究から導かれた「生活」をイメージできるような配慮です。展示に至るため、まず縄文土器の圧痕調査で縄文時代に栽培されていた植物を明らかにしています。次に、同種を育て繊維を取得し、編み物を作成しています。また、蛇紋岩も拾います。そして、実際に同じものを作り、サンプルとして展示します。さらに、この展示に関わるミュージアムの本質的な活動を、一般参加者を募って実施しています。資料の価値に加え、地域を巻き込んでミュージアムの価値を高める学芸員の姿に魅力を感じます。
なお、驚くことに展示棚の一部も学芸員のデザイン設計です。柔らかいポスターやパンフレットそして展示空間。学芸員の魅力が溢れたミュージアムなのです。
朝日町まいぶんKAN 外観
朝日町まいぶんKAN 展示室