第12回 三谷渉(田辺市立美術館 学芸員)
中村屋サロン美術館学芸員の太田美喜子です。当館は、カリーや月餅で知られる中村屋が母体で、2014年10月29日に新宿中村屋ビルがリニューアルすると同時に開館しました。 中村屋には、明治末期から昭和初期にかけて芸術家が集まっていた歴史があり、それは「中村屋サロン」と呼ばれています。所蔵作品は、その作家である荻原守衛や中村彝、會津八一などを中心とする日本近・現代洋画、彫刻、書で、夏と冬にコレクション展示を行っています。
2018年からは毎年春に、アーティストが集まった歴史を踏まえた、現代の作家のための展覧会「中村屋サロン アーティストリレー」を開催。秋の展覧会では、中村屋サロンの芸術家や日本近代洋画を取り上げて企画しています。特に2019年に開催した「荻原守衛展 彫刻家への道」は、荻原が中村屋にとって最重要作家ということもあり、思い入れの深い展覧会です。
コロナ禍でギャラリートークやワークショップの開催が難しくなったことで、動画配信で展示や作家を紹介する取り組みも始めています。撮影から編集まで全て自分たちで行うのは大変なのですが、お客様に「見ました」と言っていただくと、とても嬉しいものですね。
中村屋サロン美術館 2019年「荻原守衛展彫刻家への道」展示風景
私のおすすめミュージアム
鎌倉市鏑木清方記念美術館
私がおすすめするミュージアムは、「鎌倉市鏑木清方記念美術館」です。
美人画で知られる鏑木清方は、近代日本画を語る上ではずせない画家のひとりです。柔らかくしっとりとした美しい女性像は、私たちを優しく包み込み、心に潤いを与えてくれます。清方が最後に居を構えたのが鎌倉市雪ノ下で、その跡地に建てられ開館したのが鎌倉市鏑木清方記念美術館です。
観光客の多い鎌倉の小町通りから細い道に入って進むと、左手に風情のある瓦屋根付きの門が現れます。ここが美術館への入り口で、門をくぐると音が閉ざされ、一気に時の流れがゆるやかになるのが感じられます。
館内には、ご遺族から寄贈された多数の本画、デッサン、下図など、貴重な資料を紹介する展示室とともに、旧宅の清方お気に入りのアトリエが再現されています。休憩コーナーからは、四季折々の花を楽しめる日本式の庭を眺めることもできて心が和みます。
清方が実際に住んでいた場所で、ゆっくり作品を鑑賞しながら画家に想いを馳せる、そんな贅沢な時間を過ごせるのが鏑木清方記念美術館なのです。鎌倉へ出かけた時には、街の散策や鶴岡八幡宮への参拝をしながら、ぜひ立ち寄ってみてください。
鎌倉市鏑木清方記念美術館 木戸
鎌倉市鏑木清方記念美術館 展示室