第11回 三谷渉(田辺市立美術館 学芸員)
田辺市立美術館の三谷渉です。当館は1996(平成8)年11月に開館し、昨年25周年の節目を迎えました。2005(平成17)年からは、市町村合併にともなって、旧中辺路町立の施設だった熊野古道なかへち美術館が当館の分館に位置付けられ、以来、本館・分館の二館体制で活動しています。日本近世から現代までの作品を収蔵し、それらに関連する展覧会を二館で開催していますが、学芸員は総勢3名です。このことを同業の方に話すと、たいてい絶句されますが、、、
本年度は、開館25周年記念の展覧会として、「洋画の表現」「織の造形」「日本画の革新」「水彩画の展開」の4部構成による近現代美術のコレクション展と、紀州の三大文人画家(祇園南海、桑山玉洲、野呂介石)を紹介する特別展「きのくにの三画人」を開催しました。他に「高橋周桑展」(本館特別展)、「現代の織Ⅴ 中野恵美子」(分館特別展)、「土屋仁応 森の神話」(分館特別展)、「鈴木理策」(分館小企画展)を開催して、図録4冊と文人画コレクション選集を刊行しました。中々の仕事量にバックヤードでは悲壮感が漂っていることもしばしばですが、それは表には出しませんので(兵庫県立美術館の西田さんに「ひとつひとつの展覧会を丁寧に開催されていてうらやましい」と言わしめましたから)、ぜひのんびりしに来てください。目の前の公園も四季折々に花々が咲いて、楽しんでいただけると思います。
熊野古道なかへち美術館は本館から車で約1時間かかりますが、こちらも十分に時間をとっていただいて、古道歩きもかねてお越しいただけたらと思います。
熊野古道なかへち美術館は、建築家ユニット、妹島和世+西島立衛/SANAAが最初に手掛けた美術館です(1998年開館)
私のおすすめミュージアム
中村屋サロン美術館
私のおすすめするミュージアムは新宿の中村屋サロン美術館です。昨年末に創業120年を迎えられた新宿中村屋が、2014(平成26)年に、新しいビルを建て替えるにあたって開設された美術館です。中村屋の創業者、相馬愛蔵、黒光夫妻と芸術家、文人たちとの20世紀前半のおよそ50年間にわたる交流を伝えてくれます。柳敬助の貴重な特集展示や、新宿歴史博物館との協働による「浮世絵・水彩画に見る 新宿風景展」、「独往の人 會津八一」展など、この美術館ならではの展覧会からたくさんのことを学ばせていただきました。
コレクション展も好きで、こぢんまりした居心地の良いスペースで作品や資料を見ていると、過去の芸術家たちから親しく語りかけられているような感覚をおぼえます。そしてその芸術家たちの交流が、まさにこの地であったのだと思うと感慨もひとしおです。
注目したいのは、中村屋サロン美術館が現代の芸術家たちの結び目にもなろうとしていることです。2018(平成30)年からスタートしている「アーティストリレー」がその試みで、展覧会を行った作家が次回の作家を紹介してゆくという企画です。新進作家の充実した作品を親密な空間で見ることができ、次は誰につながっていくのだろうという楽しみもわいてきます(この特集と似ていますね)。
展覧会を見た後は、地下のマンナで伝統のカリー(ボルシチもおすすめです)をいただきながら余韻にひたり、時にはボンナで手土産を買ったりするのが定番です。中村屋ビルを出るときにはいつも、頭とおなかと心がいっぱいになっています。
中村屋サロン美術館 内観
中村屋サロン美術館 2015年11月テーマ展示:柳敬助の様子