以前は10万リラ札に肖像が使われていたほど、イタリア人に愛されているカラヴァッジョ。ただ、その人生はかなり破天荒です。
北イタリアで生まれ、20代半ばからローマで本格的に活動。29歳で描いた初の公的な大作(本展には未出展)が認められ、画家として大成しました。
画家としては超一流ですが、性格は粗暴そのもの。武器の不法所持、警官への投石と、要するにチンピラ体質です。ついには賭け事の諍いから相手を刺殺して、ローマから逃亡。逃亡先でもトラブルを起こし、ローマに戻る事なく38歳で亡くなりました。
活動期間も長くないため、真筆とされる作品はわずか60点強と言われています。教会に設置された祭壇画などは動かせないので、カラヴァッジョ作品が11点も出展される本展は、奇跡的ともいえます。
《女占い師》会場構成はテーマ別。「風俗」「五感」「斬首」など、カラヴァッジョ芸術における重要なキーワードをあげて、カラヴァッジョの傑作と周辺の作品を紹介していきます。
《エマオの晩餐》は、復活したキリストが弟子と食事をする場面。静謐な光の表現は、カラヴァッジョ晩年の特徴でもあります。
《バッカス》は初期に手がけた少年像のひとつで、日本初公開です。中性的な少年が衣を脱いで裸になろうとしていますが、その解釈は意見が分かれています。
《ナルキッソス》は、水に映った美少年(自分)に恋に落ちるギリシャ神話で「ナルシスト」の語源。恋に落ちたナルキッソスは、周りが見えなくなっています。
順に《エマオの晩餐》《バッカス》《ナルキッソス》最大の注目が《法悦のマグダラのマリア》。展覧会の開催が発表された時には出展リストに入っていませんでしたか、開幕前に急遽出展が発表され、ファンを驚かせました。
主題は、キリスト教絵画では定番といえる「マグダラのマリア」。ほぼ同じサイズのコピー作品がいくつかありますが、微妙な色調を駆使した肌の調子、衣服のひだの表現などから、カラヴァッジョ研究の世界的権威者が真筆と認定しました。
殺人を犯したカラヴァッジョが逃亡中に描いた作品で、死ぬ間際に携えていた3点の絵画のうちの1点とされています。長い間個人が秘蔵していたため、展覧会での公開は今回が初めてです。
《法悦のマグダラのマリア》直接の弟子を持たなかったカラヴァッジョですが、その作品は多くの画家を刺激しました。
オランダのヘリット・ファン・ホントホルスト、フランスのジョルジュ・ド・ラ・トゥール、イタリアのオラツィオ・ジェンティレスキらが、カラヴァッジョの影響を強く受けた「カラヴァジェスキ」たち。ヨーロッパ各地で活躍する事で、その芸術は広く拡散していったのです。
会場しばしば警察の厄介になったカラヴァッジョは、多くの調書類が残っています。本人は不本意でしょうが、現在ではこれらがカラヴァッジョの実像を示す重要な史料となっています。
本展で紹介されている史料は、暴行事件の証言、名誉棄損の裁判記録、借家の賃貸契約書(これも後日、家賃滞納でトラブルになっています)等々、ろくでもないものばかり。静謐な宗教画も描いているので、画家の実像と作品のギャップはかなり不思議に思えます。
西洋美術好きにとっては、待望の展覧会。巡回せずに
国立西洋美術館だけでの開催です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年2月29日 ]■カラヴァッジョ展 に関するツイート