今年で創設86年の大原美術館。そのコレクションは既に世界的な名声を得ていますが、県庁所在地でもない地方都市、しかも私設美術館という事を考えると、これほどの質を維持している事は驚嘆に値します。
展覧会は大原美術館の全部門を対象に、7章構成で147点を紹介する企画です。ここでは、その一部をご案内いたします。
大原美術館のアイコン的存在であるエル・グレコ《受胎告知》は、第2章の冒頭で展示。大原美術館唯一のオールド・マスター作品で、日本にある事すら奇跡と称される逸品です。得意の画題をドラマチックに描写、2013年の「
エル・グレコ展」でも展示されなかったので、東京では30年ぶりとなります。
この章には、注目の人気作品が揃いました。アマン=ジャン《髪》はコレクション第1号、ルノワールに直接制作を依頼した《泉による女》、モネとマティスの作品も本人から買い取ったものと、作品にまつわるエピソードも大原美術館ならではです。
第2章「西洋の近代美術」大原孫三郎の支援を受けて渡欧した、児島虎次郎。《和服を着たベルギーの少女》はベルギー時代の代表作で、明るい色使いが印象的です。大原と親友のような関係を続けた児島ですが、1929年に47歳で死去。大原はその死を悼み、児島が収集した美術品を公開する施設として開館したのが大原美術館です。
日本の近代絵画を本格的に収集したのは、孫三郎の長男である大原總一郎です。青木繁、坂本繁二郎、萬鉄五郎、岸田劉生など、現在では高い評価を得ている画家ばかり。関根正二《信仰の悲しみ》と小出楢重《Nの家族》は、国の重要文化財に指定されています。
またこの章には、東京藝術大学で修復されたばかりの藤田嗣治《舞踏会の前》も展示されています。
第3章「日本の近代洋画」戦時中は軍用機が本館すぐ裏に墜落したり、ロダンのブロンズ像が金属供出候補にあがったりと、何度か危機に見舞われた大原美術館でしたが、空襲を避けるために主要作品を疎開させるなどで、懸命に維持。日本の美術館としては珍しく戦争を乗り切りました。
戦後もいち早く活動を再開し、1950年代からは精力的に同時代の作品も収集しはじめます。戦後美術としてはジャクソン・ポロック、ウィレム・デ・クーニング、マーク・ロスコ、ジャスパー・ジョーンズら欧米の作品のほか、河原温、荒川修作ら日本の作家もあります。
第6章「戦後の美術」「美術館は生きて成長してゆくもの」と語ったのは總一郎でしたが、その思いは現在にも引き継がれています。
2002年に高階秀爾氏が館長に就任。現理事長の大原謙一郎氏(總一郎の長男)とともに、新しい時代の大原美術館を牽引。有隣荘(大原家旧別邸)を利用した現代作家の展覧会、滞在制作事業「ARKO」、映像や身体表現を手掛ける作家が倉敷で取材した作品を公開する「AM倉敷」の3つの事業で、40名以上の作家を迎え入れています。
思えば開館時に収集したモネやマティスも、当時はコンテンポラリーアートです。受け継いだ遺産を守り伝えるだけでなく、大原美術館は常に同時代の作品とともに歩み続けているのです。
第7章「21世紀へ」既に大原美術館に足を運ばれた方もいると思いますが、倉敷で見るのとはまた違った味わいもお楽しみ頂けます。エル・グレコ《受胎告知》も、国立新美術館と大原美術館では天井高がかなり違う事もあって、ちょっと違う印象。章の構成も違うために、海外作品と国内作品が同じ展示室に並んでいるのも新鮮です。
もちろん、大原美術館に訪れた事がない方にとっては、またとないチャンス。六本木で傑作を一挙にお楽しみいただけます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年1月19日 ]■すばらしき大原美術館コレクション に関するツイート