江戸時代の商人、三井高利(たかとし)からはじまる三井家。1984年に三井家から三井文庫に美術品などが寄贈され、翌年開館した「三井文庫別館」が、現在の美術館の前身になります。
「別館」でも年に3回の展覧会を開催してきましたが、展示室はわずか約100㎡。所蔵品の質と比べても規模の狭さは明らかで、再三の検討を経て三井本館の7階に開館したのが
三井記念美術館です。
開館記念展でも館蔵の名品を展観する企画が行われましたが、今回は現在では三井家から離れた名品も紹介されているのが特徴的です。
派手な文様が目を惹く茶碗も、かつて南三井家が所持し、現在は北村美術館蔵となった重要文化財《色絵鱗波文茶碗》。野々村仁清が加賀前田藩の注文を受けて作ったもので、仁清の色絵茶碗を代表する逸品です。
展示室1 茶道具 動画の最後が重要文化財《色絵鱗波文茶碗》展示室4では絵画と書跡を展示。三井家の蔵帳で最初に挙げられるのが、茶の湯の席で用いられる「書画」です。ただ、屏風や襖は建物で使われる「調度品」として捉えられていたため、国宝《雪松図屏風》が含まれないのは、現代の感覚からすると不思議に思えます。
現在は東京国立博物館が所蔵する国宝《虚空蔵菩薩像》も、戦前は三井が所蔵していたもの(展示は11/29まで)。1939(昭和14)年に三井家集会所で開かれた「東京大蔵会展観」(大蔵会だいぞうえ:仏教の典籍などを見せる展観事業)では、本尊のように掛けられました。
国宝《熊野御幸記》は、後鳥羽上皇の熊野参詣に随行した藤原定家による記録。近年の修理により、現地で書いた日記だった事が確実視されています。
名高い国宝《志野茶碗 銘卯花墻》も、美術館内に再現された茶室「如庵」で展示。日本で焼かれた国宝茶碗二碗のうちの一碗です
展示室4 絵画・書跡 / 展示室3(如庵) 茶道具取り合わせ歴史資料や工芸品は、展示室5です。
重要文化財《羊皮紙地図(日本航海図)》は、皮をうすくなめした羊皮紙に描かれた珍しい海図。《月宮殿蒔絵水晶台》は水晶玉を飾るために作られた台で、中板に楼閣「月宮殿」をあしらい、水晶を月に見立てています。
鶴の卵殻に稲穂や菊を描いた豪華な盃は、柴田是真による《稲菊蒔絵鶴卵盃》。象牙でつくった本物そっくりの野菜や貝殻は、牙彫家・安藤緑山によるもの。昨年開催された「
超絶技巧!明治工芸の粋」展でも話題となりました。
展示室5 書跡・絵画・工芸・歴史資料三井記念美術館のアイコンといえる存在が、国宝《雪松図屏風》。近年は年明けからのお披露目が恒例になっていますが、今回は嬉しい事に会期を通じて出展されます。
いつもは展示室4の奥が指定席ですが、今回は最後の展示室7。右側は能面、左側は刀剣と、武家文化の象徴に挟まれるように紹介されています。
円山応挙の作品は数多く伝来しますが、国宝に指定されているのはこの1点のみ。三井家は応挙のパトロン的な存在で、特注品として描かせたと思われます。松の描写は力強く、足元にはキラキラと輝く金砂子。ちなみに各扇(屏風のそれぞれの面)の紙も、継ぎが無い特別仕立てです。
展示室7 能面・絵画・刀剣この10年で指定文化財の数も格段に増えた
三井記念美術館。名品を網羅した図録も新たに作成されました。
今後の予定について清水実学芸部長に伺ったところ、これまで同様に日本を中心に東洋の古美術を紹介しながらも、少しジャンルが違う企画(「
デミタス コスモス」展など)にも積極的に取り組んでいきたい、との事。11年目以降も期待したいと思います。
次回展は、2年ぶりの開催となる「三井家のおひなさま」。来年度の予定も発表され次第、インターネットミュージアムの
「2016年の展覧会予定」コーナーでご紹介いたします。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年11月20日 ]■三井家伝世の至宝 に関するツイート