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    レポート
    ディン・Q・レ展:明日への記憶
    森美術館 | 東京都
    世界が注目するベトナム人アーティスト、アジア初の大規模個展
    ベトナム戦争をテーマにした社会性の高い作品などで、世界的に注目を集めるベトナム人アーティスト、ディン・Q・レ(1968-)。アジアで初めての大規模個展が、森美術館で開催中です。
    《抹消》2011年
    「フォト・ウィービング」シリーズ
    会場。天井から下がる2点は「巻物」シリーズ
    《農民とヘリコプター》(部分)2006年
    《傷ついた遺伝子》1998年
    《ベトナム戦争のポスター》1989年
    (左)《記号と合図の向こう側》2009年 / (右)《愛国心のインフラⅠ》2009年
    「ミレニアムにはベトナムへ」シリーズ
    《光と信念:ベトナム戦争の日々のスケッチ》2012年
    1968年にカンボジアとの国境付近で生まれた、ディン・Q・レ。時代はベトナム戦争の真っ最中で、レが生まれた68年は、米国側が劣勢に向かう転換期でした。戦争終結後、ポル・ポト派の侵攻を逃れるため、ボートピープルとしてタイに脱出した後、10歳で家族とともに渡米。米国で美術の教育(写真とメディアアート)を受けました。

    レが注目を集めるきっかけとなったのが、写真を裁断して編む「フォト・ウィービング」シリーズ。異なるイメージが混在するこの作品は、ベトナムの伝統的なゴザ編みから着想したものです。

    会場の天井から下がる「巻物」シリーズは、ベトナム戦争の有名な報道写真を、極端に長く引きのばした作品。終戦から40年経ったベトナム戦争のイメージが、デジタル情報としてどう残っていくか問いかけます。


    「フォト・ウィービング」シリーズ、「巻物」シリーズ

    《農民とヘリコプター》は、ハリウッド映画や記録フィルムに残る戦時中のヘリコプターのイメージや、ベトナムの人々へのインタビューで構成された映像と、手作りの実寸大ヘリコプターと並べて展示した作品です。

    戦争ではヘリコプターによって多くの悲劇が生まれたため、今でも拒否反応を示す人がいる一方で、農作業や人命救助のため独自にヘリコプターを開発する農民と独学の技術者がいます。ベトナム人のヘリコプターに対する、さまざまな意見が交錯します。


    《農民とヘリコプター》2006年

    ひとつの展示室全体を使ったインスタレーション作品が《抹消》。自らの難民としての経験を踏まえ、故郷を追われた人々に想いを込めた作品です。

    床面に広がる紙片は、裏返しになった肖像写真。観客は1枚選んで箱に入れておくと、後日選ばれた写真がスキャンされてウェブに記録として残ります。難民一人ひとりに、それぞれの物語がある事を示唆しています。


    《抹消》2010年

    日本人にとっては「ベトちゃんドクちゃん」で強く印象に残る、結合双生児。レの作品は一見すると可愛らしい人形の姿をしていますが、今もなお大きな問題として残っているにも関わらず、ベトナム国内では公に語られる事がない「戦争による健康被害」についての議論を促しています。

    レは米国在学中のベトナム戦争に関する授業で、米国人の体験だけに基づいた話に強い違和感を覚えたといいます。壁面の《ベトナム戦争のポスター》は、米国とベトナム双方の被害者数をポスター風に仕立てた作品。ベトナム人の被害が桁はずれに大きい事を示しています。


    《傷ついた遺伝子》1998年、《ベトナム戦争のポスター》1989年

    ベトナム戦争は北側の勝利に終わりましたが、冷戦構造が崩壊。米国との国交も回復し、ベトナムは新しい道を歩み始めています。

    大量のベトナム国旗を掲げた自転車は《愛国心のインフラ》。国旗は愛国心の表現として、現在はサッカーの試合などでよく見られる光景になりました。

    「ミレニアムにはベトナムへ」シリーズは、ベトナム政府が推進する観光キャンペーンをパロディー化した作品。米軍による大量虐殺があったソンミ村の写真に「おかえりなさい、ソンミ村へ。今度は素晴らしいビーチへどうぞ。」など、強烈なブラックジョークが記されています。


    《愛国心のインフラ》2009年、「ミレニアムにはベトナムへ」シリーズ

    「ベトナム出身の現代美術家」なので、ベトナム戦争は外せないテーマだろうな…と予想していましたが、想像以上に真正面から戦争に向き合った作品ばかり。その表現から穏やかに見えるものもありますが、奥底に宿る熱いメッセージが見え隠れする、極めて密度が高い展覧会です。ひとつひとつの作品を見ていた時間が、いつもの取材よりかなり長くなった事を付記しておきます。[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年7月24日 ]

    ディン・Q・レ: 明日への記憶ディン・Q・レ: 明日への記憶

    ディン・Q・レ (著), 森美術館 (編集)

    平凡社
    ¥ 2,808

    料金一般当日:1,800円
     → チケットのお求めはお出かけ前にicon

     
    会場
    会期
    2015年7月25日(土)~10月12日(月・祝)
    会期終了
    開館時間
    月・水~日曜日10:00~22:00
    火曜日 10:00~17:00
    (いずれも最終入館時間は閉館の30分前まで)
    *展覧会により変更する場合がございます。
    *最新情報は、美術館のウェブサイトをご確認ください。
    住所
    東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
    電話 03-5777-8600(ハローダイヤル)
    公式サイト http://www.mori.art.museum/
    料金
    一般1,800円、学生(高校・大学生)1,200円、子供(4歳-中学生)600円、シニア(65歳以上)1,500円
    展覧会詳細 ディン・Q・レ展:明日への記憶 詳細情報
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