昨年夏は首都圏でも
三井記念美術館、
そごう美術館、
横須賀美術館と相次いで開催された妖怪展。過去を調べると、2000年に福岡県立美術館などで開催された「大妖怪展」は、キワモノ扱いされて作品を集めるのに苦労したという記録が残っており、少し前は決して「定番」ではありませんでした。
また開催される場所も、少し前なら歴史系や民族系の博物館が主流。美術として妖怪の表現を考えるようになったのは、実は始まったばかりともいえます。
本展は
太田記念美術館ならではといえる、妖怪浮世絵のオンパレード。3部の会期で全作品を入れ替え、計269点を展観します。
会場取材当日は第1部「化け物」です。1階の畳のエリアの中央で紹介されている歌川国芳《源頼光公館土蜘作妖怪図》は、妖怪の浮世絵としてよく紹介される一枚です。
源頼光の屋敷で囲碁を打つ四天王に妖怪が襲いかかる場面ですが、卜部季武の紋が水野忠邦と同じことから、天保の改革を風刺した絵ではないかと噂に。騒ぎを恐れた版元は版木を削って絶版にしましたが、その後も海賊版が出る人気ぶりでした。
その人気に便乗し、やや趣を変えて作ったのが歌川貞秀《源頼光を悩ませる土蜘蛛の妖怪》。ただこちらも評判になりすぎたため、摺師は逮捕、貞秀も罰金となりました。
歌川国芳《源頼光公館土蜘作妖怪図》など妖怪の浮世絵といえば、歌川国芳が有名。本展も国芳の作品がとても多いので、できるだけ国芳以外のものをご紹介しましょう。
《平維茂戸隠山鬼女退治之図》は国芳の門人である月岡芳年の作品。謡曲「紅葉狩」の一節で、平維茂が紅葉狩りをするために信州・戸隠山に入り、女に会って酒宴を共にしましたが、実は女は鬼だった、というストーリーです。
この絵は、維茂が水面に映った女の正体に気づき、まさに抜刀する寸前。縦長の画面を巧みに使って物語性あふれる場面を表現するのは、月岡芳年の真骨頂です。
月岡芳年《平維茂戸隠山鬼女退治之図》"妖怪浮世絵といえば国芳"といいましたが、実は浮世絵に妖怪が登場した歴史は古く、「浮世絵の祖」といえる菱川師宣も妖怪を描いています。
2階では、菱川師宣と歌川国芳が、同じ酒呑童子を描いた作品が並んで展示。一見すると特に何も感じないかもしれませんが、両者の間にはざっと190年の時間が流れています。
歌川国芳《大江山酒呑童子》と菱川師宣《酒呑童子 首切り》が並びます。新しい作品では、明治時代の錦絵も。三代歌川国輝《本所七不思議之内 無燈蕎麦》も、明治19(1886)年の作品です。
本所(墨田区)界隈に伝承される奇談を描いた七枚揃の一図。蕎麦屋の行燈に火をつけると、なぜか忽ち消えてしまう。さらにつけようとすると、その家には凶事が起こるという怪奇話を、行燈の上に真っ黒い獣を描くことで視覚的に表現しました。大げさなポーズで驚いている女性がユーモラスです。
三代歌川国輝《本所七不思議之内 無燈蕎麦》最近も「妖怪ウォッチ」が低年齢層を中心に大ヒットしているように、いつの時代でも日本人のそばにある妖怪たち。北斎による妖怪画の傑作『百物語』五点の同時展示は第2部「幽霊」で、メインビジュアルにもなっている歌川国芳《相馬の古内裏》は第3部「妖術使い」で紹介されます。3部あわせてご堪能ください(2回目以降ご鑑賞の方は半券のご提示で200円割引です)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年6月30日 ] |  | 妖怪ウォッチ2
プラットフォーム : Nintendo 3DS レベルファイブ ¥ 6,009 |
■江戸妖怪大図鑑 に関するツイート