村田理如(まさゆき)氏が収集した京都・清水三年坂美術館の所蔵品を紹介する本展。村田氏は明治時代を中心とした工芸品をここ30年ほどで蒐集しており、海外に流出していた数々の工芸品が、100年以上の時を超えて、ようやく日本に戻ってきました。
三井記念美術館に入ると、冒頭から驚きの工芸品がずらりと並びます。色鮮やかな七宝、複雑に動かせる自在、煌びやかな漆工など、いずれも実に繊細な装飾が施されています。
展示室1流れるような毛並が美しいアイボリーの彫刻《羊》は、象牙を掘った牙彫(げちょう)。作者は東京美術学校の教授になった石川光明です。
置物のように見える《古瓦鳩香炉》は香炉で、鳩の部分が蓋になっています。鳩に睨まれて、古瓦の窪みに身を潜める蜘蛛。正阿弥勝義による物語性豊かな作品です。
《雀蝶尽し茶碗》は、薩摩焼。万博で高く評価された薩摩は、輸出工芸品の花形でした。茶碗は「雀蝶尽し」ですが、外側の雀はともかく、内部の蝶に至ってはズーム撮影でも分かりにくいかもしれません。
順に、石川光明《羊》、正阿弥勝義《古瓦鳩香炉》、精巧山《雀蝶尽し茶碗》展覧会を監修した山下裕二先生が「まるで八百屋のよう」とユーモラスに紹介したのが、安藤緑山(あんどうろくざん)による牙彫です。
白い材質をそのまま生かす事が多い牙彫ですが、緑山はリアルな色彩にこだわりました。あまりに似ているので、なぜこれが美術館で展示されているのか混乱しそうです。
天皇家や宮家に伝わった緑山の牙彫ですが、緑山自身は生没年もはっきりしない謎の多い人物。着色法も明かさず、後継者がいなかったため、この技法は緑山一代限りのものとなりました。
「まるで八百屋」という、安藤緑山の牙彫京で栄えた刺繍も、明治維新の後には衣服でなく、室内装飾に活路を見出そうとしました。絵画の模様を刺繍で描いた「刺繍絵画」は、この流れから生まれたものです。
単に糸で色を表現するだけでなく、縫う方向に合わせて糸の撚りを変えたり、細かく縫い重ねて色に深みをあたえたりと、ここにも細かなテクニックが。立体的な糸の効果によって、見る角度によって光の反射が異なります。
刺繍絵画は紫外線や虫食いの影響を受けやすい事もあり、国内に残る作品はごく僅か。なかなか目にすることができない逸品です(刺繍絵画は会期中に展示替えがあります)。
刺繍絵画は、視線をずらしてご覧下さいご紹介した作品以外にも、会場には刀装具や印籠、金工、漆工なども含めて計160件(前後期あわせて)。
細かな細工が施されている工芸品には、拡大鏡が備えられているものもありますが、お持ちの方は、ぜひ単眼鏡(ギャラリースコープ)の使用をお勧めいたします。
展示室7東京展は夏休み前まで(7月13日まで)と比較的会期は長めですが、多くのメディアでも話題になっている展覧会ですので、会期末は混雑必至です。お早目にお越しください。
東京展の後は静岡(
佐野美術館:10月4日~12月23日)、山口(
山口県立美術館:2015年2月21日~4月12日)に巡回します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年4月24日 ]