現代美術の入門書には必ず登場する重要人物、マルセル・デュシャン。
20世紀で偉大な足跡を遺したアーティストの1人と言われています。
第1部「デュシャン 人と作品」ではその芸術性を振り返る大規模な回顧展です。
会場風景:マルセル・デュシャン《自転車の車輪》 1964(レプリカ/オリジナル1913)Philadelphia Museum of Art:Gift of the Galleria Schwarz d’Arte,Milan,1964
デュシャンと言えば、私たちが日常に使用している工業製品に芸術的な意味付けをする「レディ・メイド」が有名ですが、会場の入り口にあるのがこちらの《自転車の車輪》です。
白いスツールに穴をあけ自転車の車輪を取り付けたこの作品を、私たちはどのように鑑賞すればよいのでしょう。デュシャンは作品を制作する際に車輪を回して気晴らしをするために、この作品を作ったと語ったそうです。デュシャンはこの車輪を回しながら、数々のアイディアを生み出していったのでしょうか。
本展では、デュシャンが10代から制作していた絵画も展示されていて、とても貴重です。
会場風景:(右奥)マルセル・デュシャン《階段を降りる裸体 No. 2》1912年 Philadelphia Museum of Art: The Louise and Walter Arensberg Collection, 1950 / (左手前)マルセル・デュシャン《叢》1910年 Philadelphia Museum of Art: The Louise and Walter Arensberg Collection, 1950
デュシャンが20代になると美術界ではピカソたちが提唱したキュビスムが現れました。
デュシャンの代表作《階段を降りる裸体 No. 2》はこのキュビスムに影響された作品ですが、階段を下りてくる時間的な経過を一枚の画面の中に残そうとしたことで画期的でした。
作品を見ていると、アニメーションがコマ送りになって表れているように感じます。
会場風景:(手前)マルセル・デュシャン《泉》1950年(レプリカ/オリジナル1917年) Philadelphia Museum of Art: 125th Anniversary Acquisition.Gift (by exchange) of Mrs. Herbert Cameron Morris, 1998
多くの芸術家たちが「視覚」に重点をおいて制作をしていたことに反して、デュシャンは「観念」を重視するようになります。
この辺からのデュシャンを理解する事は、少し難しくなっていきます。
次室では、デュシャンの代表作《チョコレート磨砕器》《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも(大ガラス)》《瓶乾燥器》が並びます。
デュシャンにとって何かを回転させるということに特別の意味があったようです。
そしてセンセーショナルとなった《泉》が展示されています。
ただの便器なのに「R.MUTT 1917」というサインを見て有難がっている私たち鑑賞者。なんだか滑稽です。
「芸術ってなんだろう?」という大変な命題を問いかけられているのでしょうか。
会場風景:マルセル・デュシャン《マルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィの、または、による(トランクの中の箱)》1935-41年、1963-65年(中身)、シリーズF、 1966年版 Philadelphia Museum of Art: Gift of Anne d’Harnoncourt, 1994
一時は芸術から距離を置きチェス・プレイヤーとなったことや、ローズ・セラヴィという女性名義で活動をしていたことなど、彼独特のイマジネーションを知る事もできます。
会場風景:(左から)マルセル・デュシャン《1913年開催の有名な国際展「アーモリー・ショー」50周年記念》1963年 Philadelphia Museum of Art: Gift of Jacqueline, Paul, and Peter Matisse in memory of their mother, Alexina Duchamp, 1998 / マルセル・デュシャン《「マルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィによる、または、の」展のための「ポスターの中のポスター」》1963年 Philadelphia Museum of Art: Gift of Jacqueline, Paul, and Peter Matisse in memory of their mother, Alexina Duchamp, 1998 / マルセル・デュシャン《「ダダ1916-19234」展、シドニー・ジャニス画廊、ニューヨーク、1953年4月15日-5月9日》1953年Philadelphia Museum of Art: Gift of Jacqueline, Paul, and Peter Matisse in memory of their mother, Alexina Duchamp, 1998
欧米の現代作品を紹介した「国際現代美術展」(アーモリー・ショー)への出展がきっかけで、デュシャンはニューヨーク・ダダの中心人物となり、その後の活動はアメリカが拠点になっていきました。
視聴覚ブースでは、大掛かりな《遺作》がどのような作品であったかを体験できるようになっています。
(手前)伝千利休作《竹一重切花入 銘 園城寺》安土桃山時代・天正18年(1590) 東京国立博物館
第2部「デュシャンの向こうに日本がみえる。」では、西洋の芸術観とは異なる日本美術についての展示です。
古来からの芸術のあり方に疑問符を投げかけたデュシャンの思想とわが国が独自に発展していった美術にはどこか共通点がある様に感じられます。
私たちが芸術作品を「見ること」で心を揺さぶられることは、間違いではないはず。しかし、芸術を「思考する」という新しい捉え方をして、現代美術に大きな影響を与えたマルセル・デュシャンの考える芸術とは何だったのでしょうか。
会場で実物を見て体験してみてはいかがでしょうか。
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松田佳子
湘南在住の社会人です。子供の頃から亡き父のお供をして出かけた美術館は、私にとって日常のストレスをリセットしてくれる大切な場所です。展覧会を楽しくお伝えできたらと思います。
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