春爛漫の上野で東西の美女たちが大集結です。
美人画の代表作ともいえる上村松園作《序の舞》は、制作から80年が経過した近年、絵具の剥落が生じていました。そのため2年にも及ぶ修理を行っていましたがこのほど修理が完了したお披露目と合わせて、江戸期の風俗画・浮世絵に近代美人画の源流を探りながら明治中期、昭和戦前期までの美人画を集めた展覧会が開かれました。
この展覧会では、一般的には有料の音声ガイドを無料で借りることができます。竹下景子さんのしっとりと落ち着いたガイドと美人画を見るために選りすぐりのBGMも聴くことができます。さすが藝大ですね。
(音声ガイドに耳を傾けながら作品をより深く楽しめます)
「美人画の源流」では、江戸期の美人画が紹介されています。切れ長でふくよかな顔立ちが好まれたようで、美人の基準も時代とともに色々と変遷していくのがわかります。
17世紀の美人画や錦絵に描かれた着物の描写が見事です。制作された当時はもっときらびやかで美しかったことでしょう。
「東の美人」では、菱田春草、池田蕉園、鏑木清方らの美人が並びます。
(菱田春草《水鏡》明治30年 東京藝術大学蔵)
こちらの菱田春草《水鏡》は天女が水に映った己の姿を眺めているもの。天女の美貌もいつか衰えるという象徴として色が変わりゆく紫陽花が描かれています。女性にとっては悲しい主題ですね。
(鏑木清方《たけくらべの美登利》昭和15年 京都国立近代美術館蔵と鏑木清方『にごりえ』昭和9年 鎌倉市鏑木清方記念美術館蔵の挿絵が続きます)
鏑木清方は樋口一葉の大ファンで、彼女自身や小説をテーマにいくつもの作品を描きました。よく知られる『たけくらべ』のヒロイン美登利を描いた作品は、少女の清楚さと待ち構える悲しい運命をはかなげに表現しています。
「西の美人」では、島成園、菊池契月、北野恒富らが展示されています。
(島成園《香のゆくえ(武士の妻)》大正4年 福富太郎コレクション資料室蔵)
こちらの作品は戦地に行く夫の兜に香を焚き染め、切なく兜を抱いている妻の姿です。この夫、木村重成は大阪の陣で首を取られてしまいます。悲しい結末を知るとさらに絵を見る思いの深さも変わってきますね。
「美人画の頂点」では、《序の舞》をはじめとした上村松園の作品が見られます。
今回の修理については、もともとは絵軸だったため、今後巻き解きする負担による劣化を避けるため、額装にしたことが大きな変更点です。額装にする際、周りの布地をどんな色のどんな柄にすると作品が映えるかを試行錯誤したようです。それはまるで、お姫様の衣装合わせのようですね。
(上村松園の使っていた画材)
修理には、松園が利用していた膠や胡粉を精密に分析し、それに極力近づけた画材を用意したそうです。
(上村松園《序の舞》(重要文化財)昭和11年 右:東京藝術大学蔵 左:《序の舞 下絵》昭和11年 松伯美術館蔵)
美人がお色直しを終えて、ますます際立つ美しさです。
心地よい春風に誘われて、色香漂う美女たちの饗宴を楽しみにお出かけするにもいい季節ですね。
エリアレポーターのご紹介
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松田佳子
湘南在住の社会人です。子供の頃から亡き父のお供をして出かけた美術館は、私にとって日常のストレスをリセットしてくれる大切な場所です。展覧会を楽しくお伝えできたらと思います。
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