空を飛ぶ人は、洋の東西を問わず、いにしえから絵画や彫刻に登場します。手が届かない空の先には、理想の世界があるのではないか。人々の願いと憧れが、優雅に宙を舞う姿として表現されてきました。
仏教美術で飛天が表されたのは、紀元前2世紀頃のインド。空を飛びながら花や音楽でほとけを賛嘆する天人の姿は、西域・中国・朝鮮半島を経て、日本には飛鳥時代に伝わっています。
会場冒頭から展覧会では日本の古代から中世を中心に、ガンダーラ、西域、中国などの作例も交えて、さまざまな飛天の姿を4章で紹介していきます。
1章「飛天の源流と伝播 ─ インドから日本」
2章「天上の光景 ─ 浄土図から荘厳具」
3章「飛天の展開 ─ 来迎聖衆」
4章「平等院鳳凰堂 ─ 飛天舞う極楽浄土世界」
前半ではガンダーラ仏や梵鐘、曼荼羅、仏画などを紹介。絵画でも彫刻でも、場面の上方に飛天が舞っている例が数多く示されます。
会場展覧会のサブタイトルに「平等院鳳凰堂平成修理完成記念」とあるように、現在、平成修理が行われている平等院鳳凰堂から出展された諸天人が、展覧会最大の目玉です。
国宝《阿弥陀如来坐像光背飛天》6躯は、階段がある吹き抜け部で展示。鳳凰堂本尊である阿弥陀如来坐像の光背を飾っているもので、平安時代の1053年に作られて以来、寺の外で公開されるのは今回が初めてです。
ふだんは遠く離れた場所にある飛天の姿が目の前で見られることもあり、極めて貴重な機会となりました。
国宝《阿弥陀如来坐像光背飛天》6躯の展示奥に進むと、さらに豪華な構成。右から左から、国宝《雲中供養菩薩像》がこちらに向かって飛んでくるように並びます。
鳳凰堂内で本尊をとり囲むように四方の壁の上方に掛けられている52躯のうち、展覧会には14躯が出展されました。表情は厳かですが、雲に乗りながら琵琶を奏でたり、立って舞ったりと、それぞれが楽しげな様相。壁面に付くものなので厚みはあまりありませんが、立体的な表現も目をひきます。
像からは彩色が失われていますが、元は極彩色でした。会場には彩色を想定して復元した模刻も展示されています。
国宝《雲中供養菩薩像》の展示なお、本展には触ることができる飛天として、南20の模刻像も展示されています。ほとけに触る「結縁(けちえん)」は、ほとけと縁を結ぶという、仏教的にとても意義深い行為。2013年を振り返り、また新年に願いを込めて。心を落ち着かせて、やさしく触れてきてください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年11月22日 ]※会期中に展示替えがあります。