“ポケモン”をテーマに、多種多様な素材と技法で生まれた工芸を紹介する「ポケモン×工芸展-美とわざの大発見-」。石川県の国立工芸館を皮切りにロサンゼルス、滋賀県、静岡県で開催された展覧会が、東京・麻布台ヒルズギャラリーに巡回してきました。
会場では「すがた 迫る!」「ものがたり 浸る!」「くらし 愛でる!」のテーマに分けて作品が並んでいます。ここでは、順路に沿って気になる作家の作品を紹介していきます。
麻布台ヒルズギャラリー「ポケモン×工芸展 ― 美とわざの大発見 ―」会場入口
まずは、吉田泰一郎(1989-)が挑んだ、凛々しい表情をした純銅のイーブイとその進化形3匹。シャワーズには青銅、サンダースには金銀メッキを、ブースターには緋銅という、伝統着色が施されています。 4匹の佇まいには、それぞれの内面性も表現。眼球には、これまでにない大きなガラス質に潤んだ七宝焼が用いられています。
吉田泰一郎の作品
東京展で初披露となった新作のミュウツー。銅、銀メッキで制作された、高さ2メートルの巨大な作品です。
吉田泰一郎《ミュウツー》2024年
木象嵌でホウオウを生み出したのは、福田亨(1994-)。ボディとなる木を彫り、そこに別の木を嵌める作業を繰り返す象嵌の技法は、一般的には平面で行いますが、福田は立体造形として展開。しなやかで繊細な羽根のパーツから、リアルさが窺えます。
福田亨《飛昇》2022年
今井完眞(1989-)が挑んだのはフシギバナ。手びねりでボディを削り、そこに土をつけることで皮膚の凹凸を表現しました。伝統と現代の影響をユニークにブレンドさせながら、蟹をはじめ魚や鳥などの生物を制作してきた今井ならではの精巧な表現になっています。
今井完眞の作品 (手前)《フシギバナ》2022年
テキスタイルデザイナーとして活躍する須藤玲子(1953-)は、「ポケモンずかん」の中でも特に気に入ったというピカチュウをモチーフにしたインスタレーションを展開。天井から吊るされた膨大なニードルレースの中に入ると、まさに森の中に入り込んだ様な感覚を味わうことができる作品です。
須藤玲子《ピカチュウの森》2023年
陶芸の枠を超える表現を続け、世界各地のミュージアムに作品が収蔵されている桑田卓郎(1981-)が選んだポケモンもピカチュウです。ピカチュウが施されたカップとボウルは東京展から倍増し、新たにタイル576枚を加えたスケールの大きい作品として生まれ変わりました。
桑田卓郎《タイル(ピカチュウ)》《カップ(ピカチュウ)》《ボウル(ピカチュウ)》
陶芸作家の桝本佳子(1982-)は、焼きものと切り離せない“ほのおタイプ”のポケモンを表現。桝本にとって信楽焼での本格的な制作は初めてでしたが、ヒトカゲやリザードンが器から飛びだしたような、エネルギッシュでユーモアに満ちた作品が生まれました。
桝本佳子の作品
全身に余すところなく文様をまとったポケモンを制作したのは、植葉香澄(1978-)。友禅染の絵師を祖父にもつ植葉は、友禅や兜などから着想した柄をポップで現代的に表現しています。
ポケモンたちに近づいてみると、光火彩文や水文、唐草文など大小異なる文様の緻密さを見ることができます。植葉の作品も東京展からの新作が登場しています。
植葉香澄《蔦唐草文 ジュペッタ》《蒼炎文 ヒトモシ》2024年
B1階の会場を鑑賞後は、MB階の麻布台ヒルズ ギャラリースペースへ。日本の伝統柄「工字繋ぎ」の着物を着たピカチュウのぬいぐるみ等、様々なグッズを販売しています。
隣には、期間限定のカフェがオープン。後期メニュー(12月26日~2025年2月2日)では、五目ちらしや、「シェイミの抹茶ラテ」等のラインナップもお楽しみいただけます。
「喫茶 ポケモン×工芸展」
後期のスペシャルメニュー
ポケモンに詳しくないという方でも工芸を通して、面白さや魅力を感じられる展覧会。もともとポケモンが好きな方は、作品に用いられた素材や技法にも着目しながら、2つの化学反応を楽しんでみてはいかがでしょうか。
展覧会はこの後、松坂屋美術館、八戸市美術館、長崎歴史文化博物館へ巡回予定です。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2024年10月30日 ]
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