皇居三の丸尚蔵館の開館記念展として、4期に分けて館蔵の名品を紹介している「皇室のみやび」展。いよいよ最後の第4期展が始まりました。
第4期展は、皇室への献上品を中心に紹介する「三の丸尚蔵館の名品」。教科書などでもお馴染みの、国宝《唐獅子図屏風》が登場しました。
開館記念展「皇室のみやび―受け継ぐ美―」第4期:三の丸尚蔵館の名品 会場
みどころたっぷりの会場から、目に留まった数点をご紹介しましょう。国宝《春日権現験記絵》は、藤原氏の氏神を祀る奈良・春日大社の創建と霊験を語る絵巻です。
展示されている巻一には建設現場が描かれており、水平を確かめる水盛、礎石を固める地搗(じつき)棒、材木に目印を入れる墨縄など、当時の技術がよく分かります。
国宝《春日権現験記絵》巻一 高階隆兼 鎌倉時代 延慶2年(1309) 頃 皇居三の丸尚蔵館収蔵
伊藤若冲による国宝《動植綵絵》は、展覧会の第1期にも8幅が出展されていましたが、第4期は別の4幅が展示されています。
《動植綵絵》は30幅からなる花鳥画。もとは京都の相国寺に寄進され、儀式に用いられてきましたが、明治22年(1889)に明治天皇へ献上されました。
国宝《動植綵絵》(左から)《芙蓉双鶏図》《蓮池遊魚図》《諸魚図》《老松孔雀図》伊藤若沖 江戸時代 18世紀 皇居三の丸尚蔵館収蔵
展覧会最大の注目である国宝《唐獅子図屏風》は、大きな展示室の右側に鎮座しています。旧萩藩主・毛利元徳からの献上品です。
六曲一双の屏風ですが、左右は制作時期が異なり、名高い名作は狩野永徳が描いた右隻です。岩間を闊歩する堂々たる獅子の姿は、まさに桃山時代のシンボルといえる作品です。左隻は江戸時代に永徳の孫にあたる狩野常信が右隻にあわせて制作しました。
この屛風は高さが2メートルを超える巨大な作品。建て替えにより広くなった展示室で、その全容をお楽しみください。
国宝《唐獅子図屏風》(右隻)狩野永徳 桃山時代 16世紀 / (左隻)狩野常信 江戸時代 17世紀 皇居三の丸尚蔵館収蔵
七宝による美しい花瓶は、明治期の日本を代表する七宝家で、帝室技芸員も務めた並河靖之の最高傑作とされる逸品です。
花瓶全体で絵画のように構成されており、四季折々の花々や樹木、野鳥などを、繊細な有線七宝で表現しています。1900年のパリ万博に出品されました。
《七宝四季花鳥図花瓶》並河靖之 明治32年(1899)皇居三の丸尚蔵館収蔵
金色の地に花鳥の姿が鮮やかな屏風は金箔のようにも見えますが、なんと刺繍で制作された刺繍屏風です。
絹糸で動植物の形状や微妙な色調の変化を巧みに表現。特に菊の花びらは部分的に盛り上けられており、絵画とは異なるボリューム感も見どころです。
昭和3年(1928)の大礼に際して、京都市から献上されました。
《閑庭嗚鶴・九重ノ庭之図剌繍屏風》高島屋呉服店 昭和3年(1928)皇居三の丸尚蔵館収蔵
重要文化財《萬国絵図屏風》は、右隻に8人の王侯騎馬図とポルトガル地図、28の都市図を描き、左隻に世界地図と諸国の人物図を描いた作品です。
描かれている内容は1609年にオランダで出版された世界地図に基づいており、日本で開かれたイエズス会のセミナリオ(画学舎)で学んだ日本人が描いたものと考えられています。
明治天皇の御学問所にあったとされています。
重要文化財《萬国絵図屏風》桃山~江戸時代 17世紀 皇居三の丸尚蔵館収蔵
会場は個人利用に限り撮影可能。このコーナーでは長い間、日本美術の展覧会をご紹介してきましたが、国宝《唐獅子図屏風》を誰でも撮影できる日が来るとは、正直、思いませんでした。
多くの人の注目を集める展覧会になると思いますが、少しでもゆったり見たいのなら、皇居三の丸尚蔵館の島谷弘幸館長より直々のアドバイスがありました。会期のできるだけ前半に、そして時間は朝イチではなく夕方が狙い目です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年5月20日 ]