様々なガラス作品の素晴らしさを紹介してきたみらい美術館、今回は趣向を変え陶磁や彫刻といった異素材が加わりました。19世紀から20世紀にかけてアール・ヌーヴォーからアール・デコへ変化したヨーロッパでは、陶磁や彫刻も変化します。異素材が奏でる交響曲の音色を楽しめます。
エントランス風景
第1楽章:ガラスが奏でる響き
ラリックの作品がずらりと並びます。アール・デコへと変化した時代を的確にとらえ主題を奏でているようです。宝飾デザイナーとして培った経験は女性の心もつかみました。洗練され多彩なデザインで時代の寵児となります。
ラリック作品
ドームも時代の変化をとらえ波に乗った作家です。カラーガラス全盛の時代から透明ガラスへと変化し、作品もアール・ヌーヴォー時代とは一変しました。透明ガラス中心に、技術を駆使するよりもシンプルなデザインに重きが置かれました。単調ですが時代のニーズとして好まれました。
ドーム作品
一方、エミール・ガレは頑なにアール・ヌーヴォースタイルを守り続けました。時代が変わろうとも信念を貫き、通奏低音を響かせているようです。
エミール・ガレ 蝶文双耳花器 1895年頃
北斎漫画の蛙が隠し絵のように潜み、葉を模した蛙もいます。琳派のような色彩など日本文化を愛した世界観を持てる技術を惜しみなく注ぎ表現しました。細部まで入念に手を加えた技巧は、光の効果も手伝い異彩を放っています。
エミール・ガレ 蝶文双耳花器 部分 1895年頃
フランスではデザイン性の強い作品が多く制作されますが、チェコでは科学技術による現象が表現され、金属による色彩の変化に目が奪われます。レックの作品はガラスの化学反応や技術を見せているようで、装飾性は加えられていません。同じ時代のガラスでもお国柄の違いがみられます。
チェコのレッツ作品
第2楽章:優美な彫刻からキュビズムへ
アール・ヌーヴォー時代は、女性の曲線美や花が彫刻として制作されました。ロダンに代表される彫刻は人間そのものをいかに表現するかという技術力に対して、装飾的で優雅な作品が制作されました。
アール・ヌーヴォー時代の彫刻
レオ・ラポルトブレルジーの妖精は、下部が木彫に見えるやわらかさがあり、手に持つランプ部分の表現は有機的です。
レオ・ラポルトブレルジー 妖精 1910年頃
エントランスの室内を模した空間には、絵画のキュビズムを思わせるザッキンの彫刻《友》が並びます(右)。アフリカの原始的な彫刻の影響もあり、彫刻の時代変化が伺えます。
彫刻作品
第3章:陶器の新風
ガレが制作した陶器の猫や、絵画を焼き付けた陶板も新たな響きを加えます。陶器は絵画よりも下に見られた時代。陶板に絵を描くことで地位向上を図りました。焼成による収縮があり大きな作品ほど絵付けは高度な技術が求められます。
KPM 白百合の女性陶板 1890年頃
アール・ヌーヴォーからアール・デコへの変化は数十年と短く、短期間に時代背景や暮らしが大きく変化しました。生活スタイルや建築、ファッションなど、曲線から直線へ、装飾から幾何学へと互いが影響しあい加速度的にシンプルモダンへと向かいます。時代とともにそれぞれの工芸品が奏でる音色の調和や変化に目と耳を傾けてみて下さい。
[ 取材・撮影・文:コロコロ / 2024年10月4日 ]