美しい春の京都。12回目を迎える「KYOTOGRAPHIE 2024」、12の会場で13の展覧会が始まりました。今年は「SOURCE」(源)がテーマとして掲げられています。
京都文化博物館 別館
展示風景 クラウディア・アンドュハル「ヤノマミ|ダビ・コペナワとヤノマミ族のアーティスト」
ブラジル人アーティストで活動家のクラウディア・アンドュハルとブラジルの先住民族ヤノマミとのコラボレーション展が日本初公開されています。
アンドュハルはスイス生まれのルーマニア育ち。ユダヤ教徒の父をもち、幼いときにホロコーストから逃れ、ニューヨークへ。その後ブラジルへ移り写真家として活動を始めます。そしてブラジル北部で先住民族のヤノマミと出会い、それ以後50年以上にわたり同族の権利や主権を守るために活動と写真作品の制作を続けてきました。
今回の展示では、彼女の写真とともにヤノマミのアーティストのドローイングと映像作品、そしてヤノマミのシャーマンであり、同族の重要人物ダビ・コぺナワが発する言葉(映像とテキスト)が紹介されています。
キャプションより「ヤノマミは、村を移設する時や、疫病から逃れる時、あるいは重要なリーダーが亡くなった時に、ヤノ(共住家屋)をしばしば焼き払う」
インタビューを受けるダビ・コペナワ氏
来日しているコペナワ氏は、インタビューでアンドュハルを「戦士」と讃えていたのが印象に残りました。目の前にいるコペナワ氏の堂々とした風格は、果てしなき地平線が続いていくよう……。別世界といえる暮らしをしていても同じ地球人だと感じさせる空気を醸し出していました。
TIME'S
ジャイシング・ナゲシュワラン I Feel like a Fish」展示風景
同フェスティバルでは、サテライトイベントとして「KG+」が2013年から同時開催されています。これからの活躍が期待されるアーティストやキュレーターの発掘と支援が目的とされた公募型イベントです。その中でも、 KG+ SELECTは、KG+のアワード部門として2019年に始まった公募型のコンペティションです。グランプリ1組には、次年のKYOTOGRAPHIEオフィシャルプログラムとして展覧会が開催できます。
ジャイシング・ナゲシュワラン氏
2023年度のグランプリは、ジャイシング・ナゲシュワラン氏。TIME‘Sで展覧会が開催中です。
不可触民、アンタッチャブルとも言われるインドのカースト制度の最下層ダリット。そのダリット系の家庭に生まれ育ったナゲシュワラン氏は、独学で写真を学び故郷を離れます。それは自身がダリットであることを忘れるため。写真の仕事をこなしながらも「ダリット」である自分と周りとの違和感を抱え、そして大病、コロナ禍を経験します。そして彼の源は、故郷であり家族、家であることに気づき、レンズを向ける対象を変えたそうです。
タブレットや新聞には載らないニュース、考えられないようなことが世界で日々起こっていることを今さらながら再認識します。テーマの「SOURCE」からは、命や根本的なものなどをイメージしますが、これらの展覧会を通して「足元」(かなり意訳ですが)という単語が浮かびました。自分の立つ場所―—実際に住んでいる場所(家、職場)でもあり、また地球――を見つめる意識が湧きました。
ジェームス・モリソン「子どもたちの眠る場所」展示風景(京都芸術センター)
ジェームス・モリソン氏
京都芸術センターでは、ジェームス・モリソン氏の作品を展示。彼は世界中の子供の寝室の写真を撮影し、そこから見える社会問題を鑑賞者に投げかけています。本展では28ヵ国35人の子どもたちを紹介。モンゴルの裕福な家庭の子ども、オピオイド(麻薬性鎮痛剤)で父親を亡くした少年の部屋など。ほぼ等身大で部屋が映し出されているので、より没入しやすい構成です。
ヴィヴィアン・サッセン「発光体:アート&ファッション1990₋2023」展示風景(京都新聞ビル地下1階)
ヴィヴィアン・サッセン「発光体:アート&ファッション1990–2023」展示風景
京都新聞ビル地下1階(印刷工場跡)ではヴィヴィアン・サッセンの展覧会を楽しめます。写真、インスタレーション、映像作品もありもあり、会場そのものがアート作品。会場の構成は大阪中之島美術館をデザインした遠藤克彦氏が担当しています。サッセンの色彩の強さと会場の個性、その中を歩くと物語に組み込まれていくように胸が高鳴りました。
ヴィヴィアン・サッセン「発光体:アート&ファッション1990₋2023」展示風景
今回のレポートは、ほんの一部。一日で回り切るのが大変なほどのボリュームで、写真を味わうだけでは終われない魅力が詰まっています。歴史建造物を楽しむ、知らない社会を知る、人と出会うなど。KYOTOGRAPIEをステップとして「なにか」開かれていく、そんな気持ちにさせてくれることでしょう。
写真祭で入ることのできる江戸時代から続く帯匠「誉田屋源兵衛」。作品とともに建物を味わってほしい
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2024年4月12日 ]