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    レポート
    うるしとともに― くらしのなかの漆芸美
    泉屋博古館東京 | 東京都
    くらしの中での漆芸品について住友コレクションの名品を紹介しながら考察
    30名分の会席膳セットはケースにびっちり。茶会や書斎でも重用された漆芸
    特性を活かして。日本独自の蒔絵、各地に広まった螺鈿、中国で発展の彫漆

    樹木から採れる樹液を使い、天然の接着剤として、あるいは表面に艶と光沢を与える塗料として。アジアにおいて漆は、その特性を活かしてさまざまなシーンで用いられてきました。

    住友コレクションの漆芸品の名品を紹介しながら、くらしの中での漆芸品について考えていく展覧会が、泉屋博古館東京で開催中です。


    泉屋博古館東京 外観
    泉屋博古館東京 外観


    現代の生活で漆はあまり使われなくなりましたが、最も多いシーンは食事の場でしょうか。重箱や椀など、来客用の特別な食器などに漆の器をお待ちの方も多いと思います。

    住友コレクションの漆芸品は、江戸時代から続く大阪の商家・住友家が蒐集したもの。もちろん、庶民の漆器とはだいぶ差があります。

    《唐草文梨子地蒔絵提重》は、外に持ち出すための弁当箱ですが、徳利以外は全て漆器。金銀高蒔絵の豪華な逸品です。


    泉屋博古館東京「うるしとともに ― くらしのなかの漆芸美」会場より 《唐草文梨子地蒔絵提重》明治時代 19世紀
    《唐草文梨子地蒔絵提重》明治時代 19世紀


    圧巻は、30名分という会席膳セット。展示ケース内にぎっちりならびますが、まだまだ全部は展示しきれていません。大阪船場の東門商店(東門五兵衛)に特注したもので、随所に見える三つの抱茗荷紋は住友家の家紋です。


    泉屋博古館東京「うるしとともに ― くらしのなかの漆芸美」会場より 《花鳥文蝋色蒔絵会席膳椀具》東門五兵衛 明治時代
    《花鳥文蝋色蒔絵会席膳椀具》東門五兵衛 明治時代


    茶の湯でも漆の道具は数多く用いられます。

    《青貝芦葉達磨香合》は、八角形に面取りされた香合の身は、中国からの渡来品。その身に合う蓋は、足利義政がつくらせたものです。織田有楽斎から建仁寺正伝院に伝来し、近代になって住友春翠が手に入れました。


    泉屋博古館東京「うるしとともに ― くらしのなかの漆芸美」会場より 《青貝芦葉達磨香合》明時代 16世紀 / 《朱塗菱形十字花弁盆》明時代 16世紀
    《青貝芦葉達磨香合》明時代 16世紀 / 《朱塗菱形十字花弁盆》明時代 16世紀


    香木を焚いて香りを聞く香道は、混ぜ合わせた香と源氏物語を結びつけた「源氏香」のように、古典の教養が必要です。おのずと、香道で使われる道具にも、文学的な意匠が好まれました。

    《吉野山蒔絵十種香箱》には、桜満開の野原に幕が張られた情景を表現。箱の中まで桜に満ちています。


    泉屋博古館東京「うるしとともに ― くらしのなかの漆芸美」会場より 《吉野山蒔絵十種香箱》江戸時代 18-19世紀
    《吉野山蒔絵十種香箱》江戸時代 18-19世紀


    能管とは、能楽の囃子方が用いる横笛。胴には樺桜の皮が巻かれ、墨漆を塗って固めています。頭部分には平蒔絵で雨龍と雷文を表し、金時絵で「薄雲」と銘が入っています。

    この笛を納める筒と箱にも、豪華な蒔絵が施されています。


    泉屋博古館東京「うるしとともに ― くらしのなかの漆芸美」会場より 《能管 銘「薄雲」》江戸時代  17世紀
    《能管 銘「薄雲」》江戸時代  17世紀


    大きな展示室3では、技法別に漆芸が紹介されています。

    漆塗面をキャンバスにして、金銀などの金属粉で文様を描く「蒔絵」は、日本独自の技法。文様部分が漆地と同じ高さの「研出蒔絵」、文様がわずかに盛り上がる「平蒔絵」、大きく盛り上がっている「高蒔絵」があります。


    泉屋博古館東京「うるしとともに ― くらしのなかの漆芸美」会場より 《蜻蛉枝垂桜蒔絵香箱》江戸時代 17世紀
    《蜻蛉枝垂桜蒔絵香箱》江戸時代 17世紀


    「螺鈿」はヤコウガイ、アワビなど輝く真珠層を持った貝を文様に切り抜いて、器物に貼ったり嵌め込んだりする技法。この手法は、東アジア各地で広まりました。

    厚さ0.1mm前後の貝を用いる薄貝法は、地が黒漆の場合には貝が透けて青く見えることから、日本の茶道具などでは「青貝」という名でも呼ばれます。


    泉屋博古館東京「うるしとともに ― くらしのなかの漆芸美」会場より 《仙人図螺鈿食籠》元時代 14世紀
    《仙人図螺鈿食籠》元時代 14世紀


    一度固まると頑丈な塗膜となる漆は、刀による彫刻が可能。この性質をうまく利用したのが「彫漆」です。何層にも塗り重ねた漆層に文様を彫り込む技法で、中国で大きく発展しました。

    一番上の面に用いられた漆が、朱なら「堆朱」、黄なら「堆黄」、黒なら「堆黒」となります。


    泉屋博古館東京「うるしとともに ― くらしのなかの漆芸美」会場より 《龍図堆黄円盆》明 万暦17年(1589)
    《龍図堆黄円盆》明 万暦17年(1589)


    中国の文人は、自らの書斎である「文房」を理想の空間にするため、その道具である「文房具」にも美をもとめ、漆芸品が好まれました。

    《花鳥文堆朱軸盆》は、書斎で楽しむための掛け軸や巻子を置くための盆。これら唐物の軸盆は、日本では床の間空間に持ち込まれ、特に違棚で巻物を巻いたまま飾る際に使われました。


    泉屋博古館東京「うるしとともに ― くらしのなかの漆芸美」会場より 《花鳥文堆朱軸盆》清時代 17-18世紀
    《花鳥文堆朱軸盆》清時代 17-18世紀


    会場後半では、近年、泉屋博古館東京に寄贈された故・瀬川竹生氏の染付大皿コレクションを受贈後初めて公開。絵付け職人の美意識が反映された、斬新で大胆な文様をお楽しみいただけます。


    泉屋博古館東京「受贈記念 伊万里・染付大皿の美」
    「受贈記念 伊万里・染付大皿の美」


    コレクションだけでの構成ですが、漆芸の世界を網羅的に楽しめる展覧会。技法についても分かりやすく解説されているので、漆芸鑑賞の初心者にもおすすめいたします。

    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年1月19日 ]

    ※作品はすべて泉屋博古館東京蔵

    《長寛好獅子唐草文箔絵会席膳椀具》象彦(八代 西村彦兵衛) 大正9年(1920)
    《楼閣山水図箔絵籐縁盆》琉球時代 18-19世紀
    《稲田鶴蒔絵硯箱》江戸時代 17-18世紀
    《野菜盛籠図蒔絵額》池田泰真 明治35年(1902頃)
    《双鶴桃図螺鈿印材箱》朝鮮時代 17-18世紀
    《楼閣人物図堆朱円盆》元時代 14世紀
    《秋草蒔絵文台・硯箱》迎田秋悦 明治~昭和時代 20世紀
    《青貝壽文字入棗》十代 中村宗哲 大正13年(1924)
    会場
    泉屋博古館東京
    会期
    2024年1月20日(土)〜2月25日(日)
    会期終了
    開館時間
    午前11時 ~ 午後6時(入館は午後5時30分まで)
    *金曜日は午後7時まで開館(入館は午後6時30分まで)
    休館日
    月曜日、2月13日(火) *2月12日(月・祝)は開館
    住所
    〒106-0032 東京都港区六本木1-5-1
    電話 050-5541-8600(ハローダイヤル)
    公式サイト https://sen-oku.or.jp/tokyo/
    展覧会詳細 「うるしとともに― くらしのなかの漆芸美」 詳細情報
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