幻想的で非現実的な独自の世界を、写実的な技法で描いたサルバドール・ダリ(1904-1989)。その作品を鑑賞するのではなく。ダリの作品の中に見ている人が入ってしまうような展覧会が始まりました。
「アートと物語を全身で浴びる没入(イマーシブ)体験」と銘打った体感型デジタルアート劇場第三弾、会場は角川武蔵野ミュージアムです。
角川武蔵野ミュージアム「サルバドール・ダリ ― エンドレス・エニグマ 永遠の謎 ―」会場入口 ©角川武蔵野ミュージアム
エントランスは、無料エリアの第3会場から。まずはダリの代表作《聖アントワーヌの誘惑》(1946)、《記憶の固執》(1931)のパネルを前に、ダリ作品にしばしば登場する卵の殻に入って、写真撮影をお楽しみください。
ちなみにダリの作品における卵は、純粋さと完璧の象徴でした。
第3会場「フォトスポットエリア」 ©角川武蔵野ミュージアム
暗い通路を進んだ先に、巨大な展示空間が現れます。メインエリアといえる第1会場「ダリを、歩く、感じる、浴びる Dali - The Endless Enigma 360度体感型デジタル劇場」です。
《記憶の固執》《聖アントワーヌの誘惑》《レダ・アトミカ》などダリの代表作をはじめ、写真、インスタレーション、映画、記録写真などから構成される映像が、ピンク・フロイドの楽曲が鳴り響く中、床や壁面360度に投影されます。
「体感型デジタルアート劇場」 Creative Direction: Gianfranco Iannuzzi Created by : Gianfranco Iannuzzi – Renato Gatto – Massimiliano Siccardi KCM Editing: Rino Tagliafierro Production: Culturespaces Digital®
「体感型デジタルアート劇場」 Creative Direction: Gianfranco Iannuzzi Created by : Gianfranco Iannuzzi – Renato Gatto – Massimiliano Siccardi KCM Editing: Rino Tagliafierro Production: Culturespaces Digital®
映像は全12幕、35分ですが、行儀よく見る必要はありません。「本展には正しい鑑賞方法はありません。歩き、立ち止まり、時には座り 自由に作品をお楽しみください」と会場入口にあるように、自由なスタイルで楽しむのが本展のポイント。展示室にはゆったり座れる椅子や階段状の場所もあるので、好きな場所でお楽しみください。第1会場と第2会場を行き来することもできます。
「体感型デジタルアート劇場」 Creative Direction: Gianfranco Iannuzzi Created by : Gianfranco Iannuzzi – Renato Gatto – Massimiliano Siccardi KCM Editing: Rino Tagliafierro Production: Culturespaces Digital®
「体感型デジタルアート劇場」 Creative Direction: Gianfranco Iannuzzi Created by : Gianfranco Iannuzzi – Renato Gatto – Massimiliano Siccardi KCM Editing: Rino Tagliafierro Production: Culturespaces Digital®
「360度体感型デジタル劇場」に隣接する通路は「言葉の回廊」。ダリの自伝から抜粋された言葉が、空間全体に展示されています。
「言葉の回廊」は、「デジタル劇場」の入口からみると正面奥のどちらからでも進めますが、左手の奥から進んだ方が、スムーズに鑑賞できます。
「言葉の回廊」 ©角川武蔵野ミュージアム
第2会場は「永遠の謎 ダリ!ダリ? 年表とともに巡るダリの生涯」。スペイン・フィゲラスにある、ダリ自身が設計や内装を手掛けた「ダリ劇場美術館」や、当時のパリの劇場をイメージした空間で、ダリの生涯が年表で展示されています。
「永遠の謎 ダリ!ダリ? 年表とともに巡るダリの生涯」 ©角川武蔵野ミュージアム
本展は角川武蔵野ミュージアム「体感型デジタルアート劇場」の第三弾。第一弾「浮世絵劇場 from Paris」(2021 年)、第二弾「ファン・ゴッホ―僕には世界がこう見えるー」(2022 年)ともに評判となり、特に「ファン・ゴッホ」展の来場者は24万人を超えました。
もちろん純粋な美術展ではありませんが、「作品の中に入り込む」ような感覚を気軽に楽しめるのは、この手の企画の良いところ。ピンク・フロイドの音楽もピッタリで、美しくも妖しい独特の世界に引き込まれました。
映像にあわせて解説を聞くことができるリアルタイムの音声ガイド(無料)も用意されていますので、スマホとイヤホンを持参ください。もちろん、写真撮影も可能です(フラッシュ、動画撮影、三脚などは禁止)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年12月18日 ]