写真を中心として映画、映像、空間インスタレーションなど幅広い分野で活躍する蜷川実花。これまでに大規模な個展も各所で開催していますが、今回はレベルが違います。
総面積約1,500㎡というTOKYO NODEのスペース全体を使った、圧倒的な密度。蜷川実花ならではの世界に溢れた展覧会です。
TOKYO NODE「蜷川実花展 : Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」会場入口
蜷川実花といえば彩度が高い作品を思い浮かべる方が多いと追いますが、意外にも真っ暗な通路からスタート。奥に進むと、11の作品が次々に登場します。
「Unchained in Chains」は、水槽を思わせる透明のボックスとモニターで映像を見せる作品です。前橋で開催中の「ニューホライズン」展でも同様の作品が展示され注目を集めていましたが、本作だけでなく、展示映像はすべて本展のために制作された新作です。
「Unchained in Chains」
大空間の映像作品「Flashing before our eyes」は、この展覧会で最大の見せ場といえる作品です。
その映像に至る通路には、都市の夜景や女性の唇の写真を展示。外光が入る窓側にも写真があるため、日中は写真と外部の風景が重なって見えます。夜はまた違った表情を楽しめるでしょう。
「Flashing before our eyes」
その奥が、最高天高15mのドーム型天井全面を使った大型の映像作品。低い位置に腰掛けると、走馬灯を見るような体験を楽しめます。
没入感たっぷりの巨大空間なので、時間を取ってゆったりとお楽しみいただくことをお勧めします。
「Flashing before our eyes」
順路を戻るかたちで進むと、続く作品は「Intersecting Future 蝶の舞う景色」。上下左右、視界全体を花々が埋め尽くしています。
映画監督として、『ヘルタースケルター』(2012)、『Diner ダイナー』(2019)など5作の長編映画を制作した蜷川実花。映画のセット技術を活用した作品といえます。
「Intersecting Future 蝶の舞う景色」
「Fading into the Silence」は、造花と生花を組み合わせた作品です。徐々に生花は朽ちていくこととなり、展示期間中はそのプロセスが写真として記録されていきます。
永遠に変わらない造花と並べることで、逆に生花の「命」が際立つという、気づきを与えてくれる作品。こちらも同様の試みが前橋の「ニューホライズン」展にもあり、強く印象に残りました。
「Fading into the Silence」
「瞬く光の中で In shimmering light with you」は、白い室内で展開される映像作品。
密度の濃い花のエリアとは対象的に、ひと息つけるような清涼感を感じる展示です。
「瞬く光の中で In shimmering light with you」
「Blooming Emotions」は、ピンク色の空間に、クッションが並ぶ展示室。頭上の花弁状のスクリーンに映像が映り、寝ころんでの鑑賞を促します。
普通の美術館ではなかなか味わえない、いつもと違う方法で作品に向き合うと、新たな発見があるかもしれません。
「Blooming Emotions」
「胡蝶のめぐる季節 Seasons: Flight with Butterfly」は、透け感のある大型のスクリーンに四季の花々が映されるなか、スクリーンを縫うように歩きながら鑑賞する作品。先にいる鑑賞者の姿も、映像を遮るように浮かびあがります。
幻想的な光景ですが、映像はほとんど加工がされていない現実のもので、多くの花々は日常の中で撮影されています。
「胡蝶のめぐる季節 Seasons: Flight with Butterfly」
会場前には、オフィシャルPOP-UPショップも登場。特別コラボアイテムも数量限定で販売されています。TOKYO NODE内の飲食店とのコラボメニュー企画も用意されています。
「オフィシャルPOP-UPショップ」
展覧会は、蜷川実花がクリエイティブチームEiM(エイム)として挑んだ企画。EiMはデータサイエンティストで慶應義塾大学教授の宮田裕章がリーダーを務め、蜷川実花のほかセットデザイナーのEnzoらが参画。プロジェクトごとに多様なチームで編成されています。
会場はすべて撮影可能で、写真を撮る・撮られることが好きな方にはピッタリです。最後に注意をひとつ、TOKYO NODEは「虎ノ門ヒルズ」のステーションタワーです。「麻布台ヒルズ」ではないので、お間違えないように。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年12月4日 ]