群馬県北部の山間地域、中之条町を舞台に、2007年から隔年で開催されている中之条ビエンナーレ。今回で9回目を迎えました。
地方で開催される芸術祭のなかでは、中之条町は比較的東京に近い地域といえます(JRで約2時間)。週末を利用して、1泊2日で足を運びました。
中之条ビエンナーレ2023 ピンクのフラッグは目立ちます
中之条市街地、伊参(いさま)、四万温泉(しまおんせん)、沢渡暮坂(さわたりくれさか)、六合(くに)の5つのエリアで開催されている、中之条ビエンナーレ2023。見どころはたくさんありますが、ここでは気になった作品を絞って紹介します。
まずは中之条駅近くの中之条市街地エリア。公式ショップはこのエリアにある「ふるさと交流センターつむじ」だけなので、グッズが欲しい方はお忘れなく。
旧廣盛酒造には8人の作品が展示。人の顔をモチーフにした大野光一の絵画はインパクトが強いです。
大野光一《遠くで星が燃える》
同じく旧廣盛酒造にある鹿野裕介の作品はユニークです。天井から水平に吊されたボードの上には、大小のボールがあり、揺するとボールが台上を転がって動きます(慣性の法則があるので、厳密には動いているのはボールではなくボードです)。
アナログな手法ながら、つい触りたくなる楽しい作品。ゴロゴロという音も、とても心地よく感じました。
鹿野裕介《醸しの間》
伊参エリアは、町のシンボルでもある霊山嵩山(たけやま)の麓に広がるエリアです。毎年、こどもの日には多くの鯉のぼりが上げられますが、関未来はオレンジ色の布を空に掲げました。
この日は絶好の好天。青空とのコントラストが美しい、「いかにも芸術祭」という写真が撮れました。
関未来《景色を生む》
伊参エリアには複数の作品が展示されているポイントがいくつかありますが、絶対に見逃せないのが「やませ」。約170年前に建てられた県内最大級の民家です。
五十川祐の作品は、掃除用具を模した形状のオブジェクトと、それぞれに添えられた言葉。残った言葉からは、さまざまなイメージが浮かんでくるようです。
五十川祐《Cleaners》
西島雄志は、銅線を渦状にしたパーツをひとつずつ繋げて、立体作品をつくる美術家。今年は春にポーラ ミュージアム アネックスでも展覧会を開催し、話題を呼んでいました。
作品が展示されている「やませ」の2階は、屋根裏の小屋組みが剥き出しになった独特な空間。暗闇に西島の作品が引き立つ、息を飲むようなインスタレーションです。
2011年から中之条ビエンナーレに参加している西島は、2021年からは中之条町に移住して活動しています。
西島雄志《環》
四万温泉は鎌倉時代から続く歴史ある温泉街。「四万の病に効く」とされる湯治場です。
いくらまりえの作品は、体育館を使った巨大な絵画。このような大空間で、鑑賞者を館内に入れずに、特定の方向から鑑賞させるのは、ちょっと珍しい試み。より空間の巨大さが感じられます。
いくらまりえ《HELLO》
沢渡暮坂エリアは、中之条市街地の東側。沢渡温泉は、知る人ぞ知る名湯です。
石坂孝雄の作品は、木で作った巨大なフンコロガシです。子どもたちにも大人気、記念撮影の行列が出来ていました。石坂は中之条ビエンナーレには6回目の参加、今回の参加作家の中で最年長です。
石坂孝雄《フンコロガシ ― 空想・くそ虫の旅 ―》
沢渡暮坂エリアからさらに西に進むと、六合エリアです。展示会場の赤岩地区は重要伝統的建造物保存地区です。
小林正樹の作品は、鉄釘を使った立体作品です。この地にはかつて群馬鉄山という鉱山があり、採掘された鉱石は戦後の復興に一役買ったという歴史を踏まえています。
小林正樹《黒金巡る旅 Season 2》
残暑が厳しい9月初旬から始まる中之条ビエンナーレ。もう少し涼しいほうが鑑賞に適しているのは事実ですが、スタッフに話を伺ったところ「秋スタートにすると、稲刈りの季節にかかるので…」と、少し申し訳なさそうに説明されました。
確かに、広い地域で行われる芸術祭は、ボランティアなど地元の理解と協力が必須です。目先の結果だけにとらわれず、地元と一体になって進めている姿は、とても好感が持てました。
今回は車を使って1泊2日の行程でしたが、じっくり見ていくと全てを回ることは出来ませんでした。コンプリートを目指す方は、参考にしてください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年9月2~3日 ]