フランス北西部に位置するブルターニュ。現在ならパリから車で4時間ほどですが、19世紀には遠く離れた「辺境の地」。多くの画家がこの地の自然と独自の文化に魅せられ、さまざまな作品を描きました。
ブルターニュに関連する絵画を多数所蔵しているカンペール美術館の作品を中心に、約70点でブルターニュの魅力を紹介する展覧会が、SOMPO美術館で開催中です。
SOMPO美術館「ブルターニュの光と風」
展覧会の第1章は「ブルターニュの風景 ― 豊饒な海と大地」。展覧会メインビジュアルの《さらば!》は、激しく荒れ狂うブルターニュの海をテーマに、アルフレッド・ギユが描いた作品です。
猛烈な嵐に翻弄される、漁船に乗った父子。永遠の別れを前に、父親は我が子の額に最後の口づけをしています。作品は高く評価され、1892年のサロンで国家買い上げになりました。
(右)アルフレッド・ギユ《さらば!》1892年 カンペール美術館
ブルトン語を話す人々など、ブルターニュにはケルトの伝統が色濃く残っています。そのエキゾティシズムなイメージは、画家の創作意欲をかきたてました。
リュシアン・レヴィ゠デュルメールによる聖母子像は、ビグダン地方の伝統衣装に身を包んでいます。背景はパンマールの岬を望むサン゠ゲノレの浜で、伝統的な画題に、ブルターニュの地域性を織り込んでいます。
リュシアン・レヴィ゠デュルメール《パンマールの聖母》1896年 カンペール美術館
第2章は「ブルターニュに集う画家たち ― 印象派からナビ派へ」。ポスト印象派のポール・ゴーギャンは、タヒチに渡る前段階としてブルターニュへ赴きました。ポン゠タヴァンに滞在していたポール・セリュジエらと出会い、太く明確な輪郭線と平坦な色面構成を特徴とする「クロワゾニスム」が生まれます。
セリュジエはゴーギャンの教えをパリに持ち帰り、ピエール・ボナールやモーリス・ドニらが「ナビ派」を結成。「辺境の地」だったブルターニュは、美術の進展に大きな役割を果たしたのです。
(左から)ポール・ゴーギャン《いちじくと女》1889年 カンペール美術館 / ポール・ゴーギャン《ブルターニュの子供》1889年 福島県立美術館
第3章は「新たな眼差し ― 多様な表現の探求」。サロンは1880年代に民営化され、新たな表現が模索されました。シャルル・コッテやリュシアン・シモンなど「バンド・ノワール(黒い一団)」と呼ばれる一派は、ブルターニュを拠点とし、ギュスターヴ・クールベやオランダ絵画から影響を受けた風景画を描きます。
リュシアン・シモンの《じゃがいもの収穫》は、パンマールの人々がじゃがいもを掘り、袋に詰める模様を描いた作品です。痩せた大地で働く人々の日常を、理想化せずに捉えました。
リュシアン・シモン《じゃがいもの収穫》1907年
ちょうど国立西洋美術館でもブルターニュに焦点を当てた「憧憬の地 ブルターニュ ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」展が開催中です。両展をあわせて見ると、より理解が深まると思います。
展覧会は一部の作品を除き、撮影も可能。東京展の後に福島、静岡、愛知と巡回します。会場と会期はこちらです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年3月24日 ]