古来から、人々のさまざまな営みが描かれてきた西洋美術。人間の根源的な感情といえる「愛」の姿も、さまざまな画家が作品として表現していきました。
美の殿堂・ルーヴル美術館から、「愛」をテーマにした73点の名品を紹介する展覧会が、国立新美術館で開催中です。
国立新美術館「ルーヴル美術館展 愛を描く」会場
展覧会のプロローグは「愛の発明」。ギリシアの哲学者たちは愛の概念を分類し、その一つがエロス(性愛・恋愛)です。「誰かに恋焦がれる」という感情は、愛の神であるアモル(キューピッド)が射た矢が心臓に当たった時に生まれると考えられました。
フランソワ・ブーシェは、18世紀フランスの巨匠です。《アモルの標的》は「神々の愛」をテーマにした連作タペストリーの原画の一つで、誘惑の後に高潔な愛が生まれるという考えが示されています。
フランソワ・ブーシェ《アモルの標的》1758年 展示風景
続く第1章は「愛の神のもとに ─ 古代神話における欲望を描く」。ギリシア・ローマ神話における愛では、愛する者の身も心も全て所有したいという、強い欲望と一体となった表現が見られます。
山や泉などの自然物の精であるニンフと、人間の身体とヤギの脚を持つサテュロスの組み合わせは、多くの画家たちがモチーフにしました。アントワーヌ・ヴァトーの作品では、欲望に駆られたサテュロスが、ニンフの身体からベールを持ち上げ、美しい裸身にみとれています。
アントワーヌ・ヴァトー《ニンフとサテュロス》1715-1716年頃 展示風景
第2章は「キリスト教の神のもとに」。キリスト教における愛の表現では、孝心をはじめとする親子愛がしばしば描かれました。聖母マリアと幼子イエスを中心に据えた「聖家族」の絵画では、人々はこれらに親子愛のモデルを見いだし、自分の家族を重ね合わせました。
また、幼子イエスを優しく胸に抱く聖母マリアの像は、キリストの受難の暗示でもあります。17世紀イタリアの画家であるサッソフェラートはこの画題で人気を博し、多くの作例を残しています。
(左)サッソフェラート(本名 ジョヴァンニ・バッティスタ・サルヴィ)《眠る幼子イエス》1640-1685年頃 展示風景
第3章は「人間のもとに ─ 誘惑の時代」。オランダでは17世紀、フランスでは18世紀に入ると、現実世界に生きる人間たちの愛が盛んに描かれるようになります。
18世紀後半に活躍したジャン=オノレ・フラゴナールの代表作《かんぬき》は、俗世の男女の愛を描いた風俗画です。かんぬき(男性性器の暗示)、壺とバラの花(女性性器・処女喪失の暗示)、乱れたベッドなど、愛の営みを象徴する事物が散りばめられています。
ジャン=オノレ・フラゴナール《かんぬき》1777-1778年頃 展示風景
最後の第4章は「19世紀フランスの牧歌的恋愛とロマン主義の悲劇」。18世紀末のフランスでは、手つかずの自然のなかで純朴な若者たちが愛を育むという、ロマンティックな牧歌的恋愛物語が、文学や美術で流行しました。
新古典主義の画家、フランソワ・ジェラールは1798年のサロンに《アモルとプシュケ》を出品しました。美しい牧歌的風景のなかで、若く美しい愛の神アモル(キューピッド)が、プシュケの額にそっとキスするロマンティックな瞬間を描いた作品は、注目を集めました。
フランソワ・ジェラール《アモルとプシュケ》、または《アモルの最初のキスを受けるプシュケ》1798年 展示風景
コロナ禍も一段落し、またこの種の大型展が見られるようになったのは嬉しい限りです。LOUVRE(ルーヴル)のスペルの中にLO VE(愛)が入っている事に気づいた担当の方には、敬意を表したいと思います。
東京展の後に、京都市京セラ美術館に巡回します(6/27~9/24)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年2月28日 ]