国立科学博物館で数年おきに開催されている恐竜の特別展。今回は「攻守」がテーマです。
防御のため、胴体に板状・トゲ状の突起や鎧を進化させた装盾類(剣竜類・鎧竜類)。対抗するように、身体を大型化したり歯や爪を進化させた肉食恐竜。両者を対比しながら、恐竜たちの進化を読み解いていきます。
国立科学博物館「恐竜博2023」会場入口
展覧会は第1章「装盾類の進化」から始まります。
約2億3000万年前に爬虫類がつま先立ちになり、恐竜が誕生。エオドロマエウスなどの肉食に対し、エオラプトル(竜脚類)とヘテロドントサウルス(鳥盤類)は植物食になりました。ここに、恐竜同士で「攻める・守る」という関係が生まれました。
第1章「装盾類の進化」
スクテロサウルスは、最初期の装盾類です。全身が300個以上の小さな皮骨で覆われていました。
後の時代の鎧竜などの装盾類か四足歩行であるのに対し、スクテロサウルスは二足歩行の小型恐竜です。
スクテロサウルス
本展の主役であるズール・クルリヴァスタトルは、第2章「鎧竜ズールのすべて」に登場します。クルリヴァスタトルという種小名は「脛の破壊者」の意味。攻撃してくるゴルゴサウルスに対し、棍棒を振り回して反撃するイメージから命名されました。
ズールの頭骨を見ると、目の後ろにある角の骨の前面に深い溝があり、鼻から頭頂部にかけて六角形の皮骨が並んでいます。これらの特徴から新種であると判断されました。
ズール・クルリヴァスタトル 頭骨(実物)ロイヤルオンタリオ博物館
鎧竜が頭骨から尾の棍棒までが一緒に発見されるのは、ズールがほぼ唯一です。また、ズールの実物化石がカナダのロイヤルオンタリオ博物館以外で公開されるのは今回が初めてと、大変貴重な機会です。
会場には、ゴルゴサウルスとズールを対峙させた展示もあります。スロープを下りながら全身復元骨格を鑑賞するという凝った構成で、迫力の戦いを堪能できます。
ゴルゴサウルスとズールの戦い
第3章は「北半球における獣脚類の進化」。約7600万年前頃のティラノサウルス類であるゴルゴサウルスが全長8m程度だったのに対し、ティラノサウルスは約13m。1000万年で大型化が進みました。
本展では、ティラノサウルスの中でも発見例が少ない部位の実物化石を使って組み立てられた、全身骨格「タイソン」が世界初公開。同じティラノサウルス「スコッティ」が並んだ空間は、絶好のフォトスポットになりそうです。
ティラノサウルス (手前)「タイソン」タイソン ティラノサウルスレックス合同会社 / (奥)「スコッティ」むかわ町穂別博物館 ©Courtesy of The Royal Saskatchewan Museum
第4章は「南半球における獣脚類の進化」。北半球のティラノサウルス類は南半球には進出せず、全長15m以上と史上最大の獣脚類であるスピノサウルスなど、大型種が繁栄しました。
2020年にアルゼンチンで発掘され、2022年に新種として命名された肉食恐竜が、メガラプトル類の新種、マイプです。推定全長9mはメガラプトル類の中で最大級です。南半球ではメガラプトル類が生態系の頂点にいた可能性も指摘されています。
マイプ ホロタイプ標本(実物)パドレ・モーリナ博物館
最後の第5章は「絶滅の最新研究」。約6600万年前、現在のカリブ海付近に隕石が衝突。環境が急変し、大きな恐竜は絶滅してしまいました。ただ、近年の研究では、隕石衝突の約1000万年前から、恐竜の多様性は減少傾向にあったことも分かっています。
ドードーは、1598年のオランダ人の航海日誌で、初めて存在が記録されたモーリシャス島の鳥です。人間による乱獲などで、1681年頃には絶滅したとされ、人間が関与した絶滅の象徴的な存在です。
(奥)ドードー 交連骨格(複製)群馬県立自然史博物館
恐竜好きの子どもたちにはたまらない展覧会です。ぜひ家族でお楽しみください。東京展の後に、大阪市立自然史博物館に巡回します(7/7〜9/24)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年3月13日 ]