阪神岩屋駅から海へ向かって約10分、ミュージアムロードと名前のついた道を進めば“美かえる”が出迎えてくれるのが兵庫県立美術館です。安藤忠雄建築の美術館は海・山・空と一体化する空間を持った楽しい館です。
阪神岩出駅から海の方へ 美かえるがお出迎え
今回開催の特別展「恐竜図鑑―失われた世界の想像/創造」を鑑賞すべく出かけてみました。タイトルからいろんな恐竜の姿が見れるであろうと思いましたが、骨格標本なし!とのフレーズもあり、少し戸惑いながらの入館です。
恐竜図鑑 ワクワクしたスタートです
皆様は古生物美術を意味する言葉“パレオアート”をご存知でしょうか?今回の展覧会は過去200年に描かれたパレオアートの名作や珍品を4つの章立てで紹介しています。 恐竜の誕生から古典的恐竜像、そして日本ではどう受け入れられたか、科学的知見が深まることによる更なる解明へと進みます。
化石発掘者メアリー・アニングの功績を称えるために、友人の地質学者ヘンリー・デ・ラ・ビーチが原画を描いた《ドゥリア・アンティクィオル 太古のドーセット》は、古生物の生態を復原した史上初の絵画のひとつといわれているそうです。
ジョージ・シャーフ(ヘンリー・デ・ラ・ビーチによる)ドゥリア・アンティクィオル(太古のドーセット)ロンドン自然史博物館
黎明期の復元図は人々のイマジネーションを掻き立てました。また、パレオアート最大の巨匠といわれるチャールズ・R・ナイトは、生物的知見に基づき恐竜の生き生きした姿を描き、そのあとを追うズデニェク・ブリアンの活躍により、自然史博物館の収蔵や映画にも大きな影響を与えました。
本の挿絵やチョコレートの付録となったリトグラフのカードなど広く一般に流布し、子供たちにも夢を与えることになりました。
テオドール・ライヒャルト・カカオ・カンパニーのチョコレートの付録として制作されたリトグラフのカード 展示風景
骨格の復元は進化の重要な解明に。 レオン・ベッケル 1882年、ナッサウ宮殿の聖ゲオルギウス礼拝堂で行われたベルニサール最初のイグアノドンの復元 ベルギー王立自然史博物館
チャールズ・R・ナイト ジュラ紀ーユタ ブリンストン大学
古典的恐竜像 ズデニェク・ブリアン イグアノドン・ベルニサルテンシス モラヴィア博物館
日本での恐竜アートはどうでしょう。古生物学者・横山又次郎により、英語のDinosaur(恐ろしいトカゲ)は「恐竜」と訳語を与えられ、書籍・模型・玩具などで人気アイテムとなっていきます。
会場には収集家・田村博の日本の恐竜史にまで及ぶようなコレクションや、漫画家・所十三の原画などが並び、時代の社会的ポジションが伺えます。
田村博コレクションなど 展示風景
雑誌や漫画にも多く登場する恐竜ロマン
最後は現代の恐竜アート。研究が進み、未知の世界から少しずつ謎が解けてきた近年。想像でしかなかった多くの古典的恐竜像は、変化することになりました。日本を代表するパレオアーティスト小田隆らの肉筆画など、迫力ある姿を存分に見せてくれています。
益々人気のアイテムとなる恐竜画 展示風景
太古の風景 丹波竜オールスター。 小田隆 篠山層群産動植物の生態環境復元図 丹波市立丹波竜化石工房
太古の世界は誰も見たことが無いからといって自由に描けるものでもなく、発掘、新発見、研究成果によって今後も真実に近づき、恐竜像は進化するでしょう。イグアノドンのイメージは短期間にこんなに変化したのです。
恐竜研究の成果による恐竜の姿も変化
最近の多くの博物館展示では恐竜ブームともいえる波も感じられますが、やはりメインは大型恐竜の発掘や復元骨格の展示でしょう。でも恐竜たちを知る欲望を満たしてくれるものとして今回のような絵画やアート作品も見逃せないと感じます。
芸術家たちのイマジネーションがコラボした未知の世界への投影は、子供・大人を問わず感受性を刺激してくれます。書籍や玩具、漫画、映画、現代アートなどあらゆる世界に進出してくる恐竜たち。「恐竜図鑑」のページをめくり、もっとそれぞれの恐竜のプロフィールを知りたくなります。出口の高い壁の上の“イグどん”が私を応援してくれていました!
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2023年3月3日 ]
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