愛知県蒲郡市の三谷温泉(ミヤオンセン)で「ととのう温泉美術館」が始まりました。 絵画、彫刻、映像、音楽、インスタレーション、パフォーマンスなど、40点以上の多様な作品を集めた現代美術展です。
「ととのう温泉美術館」は今年が第1回の開催です。蒲郡と言えば、竹島、海水浴、みかん、水族館で有名ですが、今年から現代美術もそこに仲間入りします。
会場風景
本展の会場は、ホテル明山荘、三谷温泉ひがきホテル、松風園、ホテル三河海陽閣、平野屋の5か所です。各会場の順路(回り方)に決められた順番はありませんが、午前11時と午後5時頃にパフォーマンスがあるので、今回はスタートとゴールをパフォーマンス会場に合わせ、海辺側の会場からスタートし、午後から山手側の会場を見て回りました。
ご紹介する作品数が多いので、レポートも海岸編と山手編の2本に分けてお届けします。
ととのう温泉美術館 海岸編
午前11時、チェックアウトのお客様の波も引き、静かになったホテル明山荘のエントランスにヴァイオリンの音が響き始めます。小畑亮吾のパフォーマンス《はじまりのヴァイオリン弾き》の開演です。
小畑亮吾 《はじまりのヴァイオリン弾き》
今日の演奏は1階からスタートします。歩きながら、時折、歌も交え、観客をエントランスから2階の展示会場入口に誘導します。クラシックコンサートで見聞きするヴァイオリンと奏法が違うのか、とてもカジュアルで身軽な音色に思われます。観客を引き連れて練り歩く様子は、まるでハーメルンの笛吹き男の劇のようです。
小畑亮吾は、音楽家/作曲家/ヴァイオリン弾きで、今回のように作家自身を再生装置とした時報インスタレーションを各地で行っています。
5分ほどで演奏が終わり、エレベーターで5階に昇ります。 部屋の入口から見えたのは、黒っぽい屏風の右上のほうに白い丸がいくつも描かれた作品です。
カリヲ《水嚢》
モノトーンの抽象画かと思ったのですが、作品タイトルを見たら「水嚢」とあります。「クラゲ」とわかると、確かに触手のようなものが見えます。そういえば、近くにある竹島水族館は「クラゲ」の展示でも有名です。
カリヲは、水墨画・墨彩画作家です。会場入口で配布される「会地今昔図」(先着順配布)の作家です。
ホテル明山荘に限らず、展示場所は各ホテル、旅館の各階、各部屋に分散していて、受付で借りた会場図を見ながら、エレベーターや階段で移動します。ビジネスホテルやマンションの通路や部屋とは雰囲気が違い、とても面白いです。
明山荘を出て、海岸の作品を見に行きます。野外作品は、チケットがなくても見ることができます。駐車場脇の階段を降りて行く途中に、《おみやげやさんMIYA!MIYA!MIYA!》があります。
このよのはる+Mikawa Art Center[MAC] 《おみやげやさんMIYA!MIYA!MIYA!》
海水浴シーズンは休憩所になるスペースを改装し、手作りのキーホルダー、トートバッグなどの販売所とカフェが併設されています。また、不思議な似顔絵も描いてくれます。このスペース全体が、彼らのパフォーマンス作品というわけです。
おもしろいのは、彼ら自身の作品(おみやげ)を販売するだけでなく、観客が持ち込む手作りのおみやげも委託販売できるところです。ここを訪れる人々を巻き込み、2月にはどのような「おみやげやさん」になるのか、とても楽しみです。(チケット不要なので、気軽に立ち寄れるところが強み)
このよのはるは、「うたっておどれる似顔絵ユニット」として、東京を中心に路上で歌や似顔絵による表現活動をしています。昨年、一昨年は、とよたデカスプロジェクトにも参加しているので、愛知県も活動範囲の内なのでしょう。
松風園のロビーに入ると、正面に三河湾が見えます。素晴らしい眺めです。 受付の左手にある階段を降りる途中の大きな窓一杯に作品が展示されています。
安田佐智種《母の一日(三谷温泉)》
ひらがなと数字で作られた暗号表のようですが、左上から右に読むと、どうやら誰かの時間割のようです。階段を降りたところにも透明なパネルを使った別の作品があります。
安田佐智種は、アートの社会的、公共的価値と可能性をテーマに制作しています。今回の作品も見た目のきれいさと、隠れた労働の対比が鮮やかです。
大理石の壁に絵画が数点かかっています。作品にはQRコードのようなものが張り付けられています。絵画の右手前にはiPadが置かれています。
設楽陸 《温泉画廊『むんく』》
iPadを作品にかざすと、不思議な世界が展開します。スマホで画面のQRコードを読み取りしても体験できます。これは平面作品とARを組み合わせたもので、作家は「汎現実絵画」と呼んでいます。
この作品を見ていると、不思議な気持ちになります。先日、豊田市美術館でリヒター展を見たとき、出品されていた鏡の作品に展示室を歩く観客が映り込み、まるでトロンプ・ルイユのように感じました。その時の気持ちに似ています。
設楽陸は、愛知県瀬戸市を拠点に活動する作家です。彼の作品の魅力は「架空の歴史ノート」などに現れる奇想天外さだと思います。
三谷温泉へのアクセスですが、今回は、電車で蒲郡駅に行き、蒲郡駅からシャトルバス(ラグーナテンボス行、無料)を利用しました。
自動車の場合、ホテル三河海陽閣の南側に「ととのう温泉美術館」用の駐車場があります。 会場になる各ホテル、旅館の間の移動は、会場間シャトルバス(土日運行)を利用するか、徒歩になります。山手側の道路はかなりの急勾配です。来訪の際は歩きやすい履物でお越しください。
→ ととのう温泉美術館(レポート その1)
→ ととのう温泉美術館(レポート その2)
[ 取材・撮影・文:ひろ.すぎやま / 2023年1月20日 ]
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