《線より》1980年 宮城県美術館蔵
自然物(石や木など)と人工物を用いた作品を制作した「もの派」。1960年代後半から始まった戦後日本美術における重要な動向を牽引した作家 李禹煥の回顧展が兵庫県立美術館で始まりました(2022年8月国立新美術館からの巡回)。日本での開催は2005年以来の17年ぶり。そして関西では初の大規模展です。
《関係項ー(於いてある場所)Ⅱ 改題 関係項》1970/2022年 作家蔵
《関係項ー星の影》2014年/2022年 作家蔵
本展の展示構成は李氏自身によるもので、彫刻と絵画を2つのセクションに大きく分けているのも特徴的です。それぞれが時系列に展示されており、作品の展開を知ると同時に彼の作品世界を俯瞰することもできます。
《風景Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ》1968年/2015年 個人蔵(群馬県立近代美術館寄託)
展示風景
1968年東京国立近代美術館に出品されたピンクの蛍光塗料を用いた三連画《風景Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ》に続き、石、鉄、ガラスを組み合わせた立体シリーズ《関係項》の1つが展示されています。石とガラスが在る―概念や意味よりも、「ものと場所」「ものともの」「ものと空間」に着目し制作されたものです。
《現象と知覚B 改題 関係項》1968年/2022年 作家蔵
そして、李氏の作品といえば割れたガラスと石の組み合わせを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。この組み合わせのインパクトは強烈ですが、時代によって変化してきたことを知りました。この作品が生まれた1970年代前後は世界的にも大きな変化が起こり、従来の制度が壊れて新しいものが生まれる勢いがありました。当初の「壊す」という意味に解釈されるような「割れ」は、時代が移り「きれいに」「poeticに」割るように変化したといいます。作品の興味深いところです。
本回顧展においては、その作品が生まれた1970年代の熱量を感じさせるような「割れ」をみることができます。「作品見たことある。」なんて軽く通り過ぎることはできません。そこにあるものをじっと見てください。
《関係項ーロープ干し》1974年/2022年 作家蔵
《応答》2021年 作家蔵
李氏は、自身の作品について「『もの(作品)』は場所との関係で成り立つため、同じ作品でも見るたびに違うものとして我々の前に現れる。」と説明します。その時代、展示空間によって過去に制作された作品もその時々で受け止められ方は変わっていくのだと……。「作品は絶えず動くもの。それが現代美術全体の一つの動きと考えている。現代美術とは、作家が頭で考えたものが、他人や外部と関わることで変化していく。」と言われたことが印象に残りました。
作品について語る李禹煥
《構造A 改題 関係項》1969年/2022年 作家蔵
李氏は続けます。「(自身が)欲望のままに表現することは抑えてきた。自分を前面に出さず、『もの・こと・場所』に語らせてきた。」と今までを振り返りつつ「アートでパワーを感じさせなければならない。ただそのパワーは私(李本人)にあるのではなく、自然・宇宙・ものから発せられるものだ。」と話します。彼の言葉を聞いていると、人間は宇宙の中のほんの一粒に過ぎないのだと考えさせられます。李氏の作品に包まれ、その世界に浮遊しているかのような錯覚。そしてそれは、とても心地よくもあります。
《関係項ー無限の糸》2022年 作家蔵 兵庫展のみの展示 最新作
兵庫展のみの展示作品3点のほか、安藤忠雄による建築と李禹煥作品の共鳴…ここでしか味わえないものが詰まっています。
《関係項ー無限の糸》部分 安藤建築との共鳴を楽しめる
李禹煥
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2022年12月12日 ]
読者レポーター募集中!あなたの目線でミュージアムや展覧会をレポートしてみませんか?