1年の半分近くをテントで過ごしながら極北の大地アラスカに生きた写真家・星野道夫(1952-1996)。生誕70年となる今年、星野が目にした大自然やそこに息づく野生動物や人々の写真を紹介する展覧会が、東京都写真美術館で始まりました。
東京都写真美術館「星野道夫 悠久の時を旅する」会場入口
幼いころから北の自然に憧れを抱いていた星野は、大学1年生時に古本屋で出会った洋書『アラスカ』に掲載されていたシシュマレフ島に魅せられます。星野はベーリング海と北極海がぶつかる海域に浮かぶ小さな島・シシュマレフ島の村長に手紙を宛て、1973年の夏に3か月程エスキモーの大家族の家で過ごします。
空から見たシシュマレフ村。ベーリング海と北極海がぶつかる海域に浮かぶ小さな島。 撮影:星野道夫©Naoko Hoshino
アラスカに長く深く関わるために写真家になる道を選んだ星野は大学卒業後に2年間、動物写真家の助手を務めたのち、1978年にアラスカ大学野生動物管理学部に入学。1年の大半を旅に出て写真の撮影をする生活がはじまりました。
第1章 「生命の不思議 極北の動物たちとの出会い」
北極圏周辺に住むシカ科の動物、カリブーへの想いは強く今回の展覧会でも多く登場します。春と秋に長い季節移動をするカリブーの撮影は困難なもの。猛烈な風を伴う吹雪・ブリザードの中で撮影した際には、野生動物の生きる生命力を感じたようです。
第1章 「生命の不思議 極北の動物たちとの出会い」 撮影:星野道夫©Naoko Hoshino
カリブーと同じく数多く登場するのがクマです。基本的に銃を持たずに撮影に臨んでいた星野。異なる性格をもつ動物に対して星野は、長い時間同じフィールドで一緒に過ごす中で見えたあるがままの姿を撮影していきます。
第1章 「生命の不思議 極北の動物たちとの出会い」
幼い頃に憧れていた北方に棲むオオカミやシロクマは、まるで架空の物語に登場する存在のようだと語っていた星野。ハドソン湾周辺では吹雪の中で眠るホッキョクグマの親子や、ホッキョクグマの余り物を狙うホッキョクギツネ、アザラシをカメラに収めていきます。
第1章 「生命の不思議 極北の動物たちとの出会い」
氷点下50度にもなるアラスカの冬では、日照時間はわずか3時間足らず。しかしその冬があるからこそ、ドラマティックに感じられる春の訪れや生命が成長と繁殖を進める夏や紅葉の秋の移ろいを感じることができます。星野は、感覚を研ぎ澄ませ、アラスカの季節の動く瞬間を捉えていきました。
第3章 「季節の色 自然との出会い」
北極圏の野生動物と自然を追い求めてきた星野ですが、自然と生きてきたエスキモーやインディアンの古老のもとを訪ね話に耳を傾けます。さらにアラスカの先住民のルーツを求め、ベーリング海峡を超えてシベリアにも赴きます。
会場風景
1996年6月30日にシベリアに渡った星野ですが、カムチャツカ半島を取材時にヒグマの事故によって急逝します。今年の5月、25年の時を経てパノラマカメラがアラスカの自宅から発見。会場には、そのカメラに装填されていた経年劣化のため変色したフィルムも展示されています。
北の自然に魅せられ、生涯を通して自然と人との関わりを追い続けた星野の悠久の旅路を体感できる展覧会。写真展は2023年以降も全国を巡回をする予定です。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2022年11月18日 ]