『すすめ‼パイレーツ』や『ストップ‼ひばりくん!』などで知られる、漫画家・イラストレーターの江口寿史(1956-)。
「週刊少年ジャンプ」で連載された両作品は、70年代〜80年代にかけてファンを魅了しただけでなく、作中に同時代の若者の音楽やファッションを取り込みながら絵を描くことへの関心を高め、現在は日本を代表するイラストレーターとして活躍しています。
江口の作品で、特に光るのが女性の描写。女性を描いた作品だけを集め、45年におよぶ創作を俯瞰する展覧会が、千葉県立美術館で開催中です。
千葉県立美術館「江口寿史イラストレーション展 彼女」
江口は熊本県水俣市生まれですが、中学生時代に千葉県に転居。ゆかりの地で開催される、ファン待望の展覧会という事になります。
今回の展覧会は3つの展示室を使った大規模展。約500点というボリュームで、江口ワールドに包まれます。
第1章「遭遇 │ ポップの美神たち」は、CDジャケットや本の表紙を大型キャンバスに出力したもの。ポップな魅力がはじけます。
第1章「遭遇 │ ポップの美神たち」
第2章からは、ほぼ年代順。まずは連載マンガの扉絵や単行本カットの原画などを展示しています。
連載マンガを描いていた当初は、作画には興味がなく、ギャグの事ばかりを考えていたという江口。少し意外に思えます。
着彩にはパントーン(色がついた半透明シール状の画材)を使ったり、コミック用のマーカーを使ったりと、さまざま。修正の跡など、原画ならではの魅力も味わえます。
第2章「恋慕 │ マンガからイラストレーションへ 1977年~」
続いて、1999年から2000年に描かれた、週刊コミック誌の表紙を飾った作品。この頃までが、最後の手塗り作品になります。
下絵と並んでいる作品もあるので、比べながらお楽しみください。
第3章「素顔 │ 美少女のいる風景 1999~2000年」
ワインを手にした女性が並ぶのは、季刊「リアルワインガイド」(リアルワインガイド社)の表紙絵。
2002年の創刊号から現在でも続いており、すでに70点以上。下絵や線画も展示されています。
第4章「艶麗 │ ワインを持った女たち 2002年~」
次の展示室では、CDジャケット画を中心に紹介。若者の持ち物やファッションを描いた作品も展示されています。
Tシャツ、デニム、ジャージ、着くずした学生服など、どちらかというとブランドものではなく、日常的な装いが目につきますが、どの作品もとてもファッショナブルです。
第5章「青春 │ 音楽とファッション 2000年~」
最終章は近年の作品。吉祥寺商店街サンロードバナー20連作が目を引きます。
第6章「慈愛 │ いまを生きる彼女たち 2014年~」
また千葉展では『すすめ‼パイレーツ』扉絵イラストも特別展示されています。
『すすめ‼パイレーツ』は、流山市を拠点とする架空のプロ野球チーム「千葉パイレーツ」の活躍を描きました。
千葉特別展示『すすめ‼パイレーツ』扉絵イラストの世界
なにげない仕草の中に、女性の「らしさ」を感性は、江口寿史ならでは。連載漫画を描いている時から女性キャラの美しさには定評がありましたが、キャリアを重ねるに従い、ますます洗練さを増しているように思えます。間違いなく、現代最高峰の美人画家といえるのではないでしょうか。
初日の会場には、江口の漫画を読んでいたと思われる世代の方が目につきましたが、ぜひ若い人にも見ていただきたい展覧会です。嬉しいことに、入館料も安価です(一般 500円)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫、坂入美彩子 / 2022年10月29日 ]