俳句で有名な与謝蕪村を中心に、蕪村が憧れた松尾芭蕉、蕪村と同じ年に生まれた伊藤若冲の足跡を辿る企画展です。
嵐山と言えば、緑豊かな景観美、桂川の心洗われる景色、そして華やかで賑わう観光地のイメージですが、本展の会場となる二館はどちらもとても静かで品のいい優美な美術館でした。
第一会場の嵯峨嵐山文華館。芭蕉について、昔習った「ふる池や〜」とかの俳句以外何も知識を持ち合わせず訪れました。まず直筆の手紙や短冊などの作品が現存することに驚きましたが、その直筆の書の優美なこと!こんなに流れるように美しい文字で詠んでいたことに感動しました。現代と違って、常日頃から心の思いを筆で綴っていた人だから、こんなに美しい絵のような文字が書けるのだろうか?変体文字で読める訳でもないけれど見惚れてしまいました。
松尾芭蕉「古池や」発句短冊・極書
芭蕉はまだ漢詩が主流だった時代に、もっと心の思いを綴っていいんだよと、俳句を普及させた人だそうです。五・七・五の中にその時の心情や空気感を表す俳句って、日本ならではの素晴らしい文化だなと改めて思いました。
後に芭蕉像を描いた作品も多数展示されており、文化人としてとても影響力があって、後の人々からも愛されていた方だったことがわかります。
与謝蕪村《松尾芭蕉像》
伊藤若冲 画・三宅嘯山 賛《松尾芭蕉像》
二階は120畳の大広間。靴を脱いで、ゆっくりくつろいで作品を楽しめます。窓からは桂川の美しい風景。ここでしか味わえない素晴らしい空間でした。
嵯峨嵐山文華館 二階大広間
ここには芭蕉・蕪村・若冲以外の水墨画も俳句と共に多く展示されています。毒があって当たるかもしれないと知っているけど、どうしてもフグを食べずにいられない人の性を著した俳句が添えられた《河豚図画賛》など、ちょっとユーモラスな俳句の世界が堪能できました。
高井几董《河豚図画賛》
続いて桂川に沿って少し歩いたところにある第二会場の福田美術館。ガラス張りの廊下から覗く庭には白い秋明菊が咲き誇っています。
こちらでは松尾芭蕉の《野ざらし紀行図巻》が、よりわかりやすい現代文解釈パネルと共に展示されています。《野ざらし紀行》は芭蕉が江戸から伊勢、伊賀、大和、近江、尾張を巡り、江戸に戻るまでの道中に詠んだ歌を記したものですが、《野ざらし紀行図巻》はその時の紀行文全体にわたって挿絵が添えられている貴重な作品で、今回初公開だそうです。芭蕉の旅を辿りながら、自分でも行ったことのある場所や、懐かしい思い出の場所もあって、とてもテンションが上がりました。
松尾芭蕉《野ざらし紀行図巻》★写真多いので、小野竹喬作品1点に絞りました★
また伊藤若冲と与謝蕪村の作品も多数展示されています。
若冲といえば色彩が豊かな緻密で美しい画を思い浮かべますが、今回の展覧会では《雲龍図》や《柳に雄鳩図》などの白と黒の墨の世界での、シンプルだけど艶やかでいさぎよい筆使いの作品が見られます。特に前期のみの展示となる《蕪に双鶏図》は若い頃の作品ですが、今にも動き出しそうで、後の若冲の動植物を描いた作品群の特徴が見られる逸品でした。
伊藤若冲《雲龍図》
伊藤若冲《柳に雄鶏図》
伊藤若冲《蕪に双鶏図》
蕪村は20代から江戸で俳諧を学んだ後、僧侶として北関東から東北地方を遊歴。40代から京都に住み、南宗画を学びながら山水画を描き、絵と俳句を添えた「俳画」というジャンルを確立した人です。本展でも色鮮やかな屏風図《茶筵酒宴図屏風》や、素朴な水墨画の世界と、色々な才能を見ることができます。
与謝蕪村《茶筵酒宴図屏風》左隻 [画像提供:福田美術館]
与謝蕪村《茶筵酒宴図屏風》右隻 [画像提供:福田美術館]
最後のコーナーには、松尾芭蕉に憧れた小野竹喬の習作スケッチの展示があります。習作といえど、とても丁寧な描写の絵画で、87歳の画家の気力に脱帽でした。
小野竹喬《日本海I》
全体を通して、自分の中ではごちゃ混ぜになっていた俳句の世界がとても流れよくわかり、また沢山の発見や感動があった展覧会でした。俳句とか書はちょっと敷居が高いなと思いがちでしたが、どちらの美術館でもわかりやすく、親しみやすいアプローチがされていたところも良かったと思います。
古の京都にまつわる作品も数多く所蔵されていて、館内からの景観も素晴らしく、穴場の美術館だと感じました。
[ 取材・撮影・文:Marie / 2022年10月20日 ]
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