ピカソの生涯に渡る作品をはじめとする20世紀の作品を数多く所蔵しているドイツ、ベルリン国立ベルクグリューン美術館。美術館には、パリで画廊を経営していた美術商ハインツ・ベルクグリューン(1914-2007年)によって集められた世界有数の個人コレクションが並びます。
コレクションの中でも特に選りすぐりの名品が揃ったピカソ、クレー、マティス、ジャコメッティらの作品を紹介する展覧会が、国立西洋美術館で開催中です。
国立西洋美術館 入口
ハインツ・ベルクグリューンは、1990年代までポール・セザンヌやフィンセント・ファン・ゴッホをはじめとするポスト印象派の画家たちの作品を所蔵していました。大半の作品はベルクグリューンの晩年に売却されましたが、ピカソやマティスらにも多大な影響を与えたセザンヌの数点の作品をⅠ章で紹介しています。
Ⅰ セザンヌ ― 近代芸術家たちの扉
ベルクグリューン美術館のピカソコレクションは、ピカソの少年期から晩年までの作品を網羅しています。会場では「青の時代」、「ばら色の時代」からキュビスムの探求、静物画の変容の過程をふり返ります。
Ⅱ章では、その中でも20世紀美術に革新をもたらした、ピカソとジョルジョ・ブラックの共同作業によって進められたキュビスムの絵画が展示されています。
Ⅱ ピカソとブラック ― 新しい造形言語の創造
ピカソの作品には、実生活における女性たちとの関係が大きく影響を与えました。ピカソの恋人であった女性芸術家、ドラ・マールを斬新な構図で表現した作品はピカソ作品の中でも強い存在感を放ちます。
《緑色のマニキュアをつけたドラ・マール》をはじめ、35点ものピカソの作品が、日本で初公開となっています。
Ⅳ 両大大戦のピカソ ― 女性のイメージ
ピカソと並んでベルクグリューン美術館のコレクションの柱となっているのがパウル・クレーの作品です。今回の展覧会では34点のクレーの作品を紹介しています。
Ⅴ クレーの世界
造形原理の考察とロマン主義的な想像力を融合させていたクレーですが、ピカソに強く関心をもち、キュビスム絵画に影響を受けていきます。
Ⅴ クレーの世界
Ⅵ章ではアンリ・マティスの作品を紹介。ベルクグリューンが「現代フランスの最も偉大な画家」と称賛したのがマティスでした。
ベルクグリューンが晩年収集したマティスの作品は、静と動、安息と活力といった対照的な性質が表れています。
Ⅵ マティス ― 安息と活力
マティスの制作の中で重要性を高めたのが、純粋な色彩と簡素なデッサンの総合といえる、躍動感にあふれた切り絵でした。緑色の地に黒い人物が切り絵された美術雑誌『ヴェルヴ』の表紙図案も、日本初公開の作品です。
Ⅵ マティス ― 安息と活力
最終章は、ピカソとマティス、ジャコメッティの3人による作品で構成。20世紀の2大巨匠という評価を確率したピカソとマティス。そしてこの時期に円熟期を迎えたのが、ジャコメッティです。
彫刻と絵画において、自分の目に見えたままを表すことを追求したジャコメッティは、脆さと同時に存在感をもつ人間を生み出しました。
Ⅶ 空間の中の人物像 ― 第二次世界大戦後のピカソ、マティス、ジャコメッティ
一方、最晩年の切り紙絵において生命力にあふれる女性像の表現に達したマティス。ピカソは、ドラクロワやベラスケス、マネという過去の巨匠から作品の解釈を行い、晩年にはエロスを自由に表現していきます。
Ⅶ 空間の中の人物像 ― 第二次世界大戦後のピカソ、マティス、ジャコメッティ
芸術、文化、社会全体が大きく変動した20世紀に活躍したそれぞれの作家たち。ベルクグリューン美術館から来日した97点のうち76点が日本初めての公開という貴重な展覧会。東京展での会期は1月22日までですが、2月から大阪へ巡回します。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2022年10月7日 ]