幕末に生まれ、江戸時代以来の伝統を受け継ぎながらも西洋画の技法を取り入れ、独自の画風を発展させた竹内栖鳳。「動物を描けばその体臭までも表す」と自身で語った通り、ひたむきな写生によって培った描写力は栖鳳作品の大きな魅力です。
現在、山種美術館では「【特別展】没後80年記念 竹内栖鳳」が開催されています。
会場入口
展覧会の第1章では、栖鳳の初期から晩年までの作品が会期中を通して全37点を展示します。(会期中、展示替えあり)
展示風景
一番の見どころは、栖鳳の描いた動物画の中でも人気の高い《班猫》です。背中を毛繕いする猫の一瞬を捉えた本作は、金泥を用いて描かれた柔らかな毛並み、透き通るような青緑の瞳など、目を離せないポイントが目白押し。さらに今回の展示では、《班猫》の撮影が可能です。(スマートフォン・タブレット・携帯電話に限ります)
竹内栖鳳《班猫》【重要文化財】1924年
ちなみに、栖鳳は猫にポーズをとらせるために、わざと猫の背中にハチミツを塗ったのだとか。写生を重んじる栖鳳らしいエピソードですね(猫には災難だったかもしれませんが……)。会場には《班猫》のモデルになった猫の写真も展示されています。
《班猫》と同じく、びっしりと描き込まれた毛描きを楽しめるのが《松虎》(東京国立博物館蔵、前期展示 10月6日~11月6日)。2頭の虎の毛並みには白い胡粉でハイライトが入れられ、堂々たる存在感が強調されています。 背景の松や岩には漢画風の描写も見られ、栖鳳が中国古典も幅広く参照していたことが窺えます。
竹内栖鳳《松虎》1897年頃 東京国立博物館 (前期展示のみ 10月6日~11月6日)
展覧会には、栖鳳73歳の作である《風かおる》など、晩年の作品も展示されています。それまでの作品に比べ、さらりと少ない手数で燕の羽のふくらみ、風にそよぐ柳の葉が的確に表されています。
竹内栖鳳《風かおる》1937年頃
展覧会の第2章では、栖鳳より先んじて京都画壇で活躍した先人、同時代の画家、栖鳳の弟子たちの作品が展示されています。
展示風景
《松竹梅》は、栖鳳と同時代の画壇を代表する日本画家、川合玉堂、横山大観と栖鳳自身の合作です。玉堂の繊細な竹、大観の力強い松、栖鳳の華やかな梅と、三者三様の画風が楽しい作品です。
《松竹梅》1934年 (右から)川合玉堂《竹》/横山大観《松》/竹内栖鳳《梅》
栖鳳の弟子である西村五雲の作品《白熊》では、白熊の荒々しさがごわごわとした力強い毛描きで表現されています。
西村五雲《白熊》1907年
特集展示として、国画創作協会を結成した作家たちの作品も展示されています。中心メンバーはみな栖鳳の弟子たちで、栖鳳自身も彼らの自由な創作を支援するため協会の顧問に就いていました。
展示では村上華岳《裸婦図》などが展示され、栖鳳の後進達がそれぞれに独自の画風を突き詰めていったことが窺えます。
村上華岳《裸婦図》【重要文化財】1920年
自身のルーツである円山・四条派のみならず、西洋画や漢画、狩野派など幅広い分野から学んだ栖鳳。初期は様々な動物の部位が集まった妖怪「鵺」になぞらえて「鵺派」と批判されますが、そうした古典学習や写生を重ね、自身だけの画風を確立していきました。初期から晩年までの作品が集まるこの展示は、そうした栖鳳の足跡を辿れる絶好の機会です。
※文中の所蔵先表記のない作品は、すべて山種美術館蔵
[ 取材・撮影・文:芝 / 2022年10月5日 ]
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