新型コロナウイルス蔓延により、移動の自由が奪われ、世界中が閉塞感に苛まれた2年半。“旅”とは一体何なのか。「旅に出たい、どこかへ行きたい」という思いを募らせてくれる展覧会が、開催中です。
会場入口
会場は「100年前の旅人 朝香宮のグランドツアー」「集めることは旅すること あるコレクターの物語 」「現代アーティストによる旅の風景」の3部構成。
旧朝香宮邸である本館の大広間では、朝香宮夫妻の旅の軌跡を紹介していきます。 1922年10月、朝香宮鳩彦王は欧州の文化や芸術に触れながら見聞を広める「グランドツアー」に旅立ちました。 展示されている異国の情景を記した絵はがきや、航路が表された地球儀から、刺激に満ちた旅での生活を感じることができます。
「旅と想像/創造 いつかあなたの旅になる」会場 大広間
小客室では、朝香宮夫妻が撮影した写真の数々やアルバムを展示。ドイツ製のカメラを2台購入した鳩彦王は、旅先で撮影したフィルムをパリに戻るたびに現像し、気に入った写真をアルバムとして制作していました。
「旅と想像/創造 いつかあなたの旅になる」会場 小客室
1920~30年代の前半のヨーロッパの主要都市では、交通機関や通信手段の進歩を遂げ、一般の人々が観光旅行に出ることが盛んになりました。特急列車や巨大豪華客船の登場と同時に生まれたのが、広告ポスターです。
本館の2階には、グラフィック・デザイナーのカッサンドルが描いた鉄道や船のポスターが並び、人々の旅心をかき立てます。
「旅と想像/創造 いつかあなたの旅になる」会場 2階広間
第2部では、鉄道資料蒐集家・中村俊一朗(1941-)の鉄道資料から旅への思いを馳せます。 中村が蒐集したヨーロッパのアール・デコ期のポスターや日本国内の古い鉄道ポスターは、その数およそ900点。中村の居間を再現展示した北の間では、鉄道ポスターや引き札、鉄道のパーツなど様々な資料が並びます。
「旅と想像/創造 いつかあなたの旅になる」会場 北の間
今回の展覧会の最も見どころとなるのが、現代アーティストが作家独自の視点で語る旅のかたちです。ここでは4名の作家の作品を紹介します。
最初に紹介するのは、文字や言葉を独自の感覚と思考で捉える作家・福田尚代(1967-)。書庫や書斎には、福田が2003年から着手している「翼あるもの」シリーズを展示しています。
福田によって1頁1頁折りたたまれた本の中から、偶然に現れる1行の文字。折りたたまれたことで、文章のすべては読めませんが、残った1行から見る者の記憶や想像力をかき立てられる作品です。
福田尚代 《翼あるもの『大洪水』》2022年 会場 殿下居間
続いては、日常の見慣れた風景の中に存在しない要素をもちこんだ映像を生み出す、さわひらき(1977-)。1階の大食堂では、旧朝香宮邸で撮影した実写映像にジェット機や飛び回るふしぎな生き物が登場するビデオ・インスタレーションを展示しています。
さわひらき 《remains》2022年 会場 大食堂
栗田宏一(1962-)は、20代半ばからバックパッカーとして世界各地を旅して採取した土を壁一面に配置するインスタレーションを作成。栗田は、各地の風土の中に身を置くことで自然と人に対する思考を高めているといいます。 会場には、2021年11月から現在に至るまでの約300日の日々の土採取を記録する絵はがきシリーズも展示しています。
栗田宏一 《「旅」と「土」》2022年 会場 新館ギャラリー1
《Walking Diary》2021-2022年 会場 新館ギャラリー1
宮永愛子(1974-)は、常温に置くと気化するナフタリンや塩など、周囲の影響を受けやすい素材を用いて作品を発表しています。木製パレットの上に置かれた透明のトランクの数々からは、空港や港など多くの人が往来する場所を連想させます。 また、封入された白い鍵や赤い蝋で留められた封印から、過去の経験とのつながりや旅と時間の結びつきを感じさる作品です。
宮永愛子 《手紙》2013-2019年 会場 新館ギャラリー1>
様々な側面から旅へと誘う作品に出会える今回の展覧会。旧朝香宮ではまるでタイムトラベルした様な空間を味わうことができます。旅のラウンジとして、2階のベランダもおすすめです。過去の旅の記憶を辿りながら、お気に入りの旅の本を見つけてみては。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2022年9月22日 ]