1400年の歴史ある古刹、當麻寺(奈良県葛城市)に、奈良時代から伝わる本尊・綴織當麻曼荼羅。「中将姫」と呼ばれる貴族女性の祈りに応えて織られた奇蹟の曼荼羅として尊ばれ、後年多くの写しが作られました。 當麻寺には綴織曼荼羅のほか、その写しとして室町時代に作られた文亀本當麻曼荼羅、江戸時代に作られた貞享本當麻曼荼羅が現在に伝わります。
本展は、修理を終えた貞享本當麻曼荼羅の修理完成を記念した特別展となっています。
入口看板
この展覧会のために、葛城市のマスコットキャラクター・漣花ちゃんが駆けつけてくれました。 葛城市は當麻寺の所在地で、漣花ちゃんは中将姫がモデルなんです。 漣花ちゃんと當麻寺住職&奈良国立博物館館長とのちょっと珍しいスリーショット。 みんな可愛い笑顔がステキです。
漣花ちゃんと記念撮影
修理を終えた貞享本當麻曼荼羅は、根本・綴織當麻曼荼羅の最も精密で色鮮やかな、絵画による写し。いつ失われるかわからない曼荼羅を後世に遺すために、江戸時代に作られたものです。
壁一面に掛かる曼荼羅は想像以上に大きく、また澄んだ美しい色彩が目を引きます。
貞享本當麻曼荼羅前での當麻寺による法要
當麻曼荼羅は、いにしえの人々が思い描いた極楽浄土。 近づいて見ると、中央の阿弥陀三尊の背後の楼閣や、手前の池の中までもしっかりと描かれており、細やかな描写に驚かされます。 サイズに限りがある画像ではこの美しさを十分にお伝えできないのが残念。ぜひ実物を見ていただきたい逸品です。
當麻曼荼羅(貞享本) 奈良・當麻寺
貞享本は絵画による写しですが、根本である綴織當麻曼荼羅は、その名の通り「織物」。 制作当初の様相を紹介するために、綴織の技法で部分復元したものが展示されていました。 あの大きな曼荼羅を織りあげるためには、4人の織り手が共同で作業しても8年もの歳月がかかるといわれています。
綴織當麻曼荼羅 部分復元模造
當麻寺に伝わる3幅の曼荼羅を比較できる『デジタルビューア』のコーナーでは、最新の高精細画像で自由に拡大して見比べることができます。
當麻曼荼羅デジタルビューア
當麻曼荼羅信仰は全国に広がり、各地で写しがつくられました。 福井・正覚寺に伝わるこの曼荼羅は、根本曼荼羅とほぼ同じ大きさで作られており、貞享本を描いた絵師によって描かれたものです。
當麻曼荼羅 福井・正覚寺
當麻曼荼羅信仰を広げることとなった「中将姫の物語」とはどんなものだったのでしょうか。 本展では、當麻曼荼羅とともに信仰され後世にも長く愛されてきた中将姫の物語にもスポットをあてています。
中将姫坐像(左)と當麻曼荼羅厨子扉(右) 奈良・當麻寺
奈良時代、貴族の娘として生まれた中将姫。幼い時に母を亡くし、継母に疎まれ捨てられた中将姫は、極楽往生を望んで當麻寺で出家します。ある日、化尼に「蓮の茎の糸で曼荼羅を織るがよい」と説かれ、一晩で曼荼羅が織りあがる奇蹟が起こったと伝えられています。
その数年後、生身の阿弥陀如来と二十五菩薩が現れ、中将姫は西方浄土へ迎えられたのです。
當麻寺縁起
當麻曼荼羅縁起、當麻寺縁起をはじめ、いくつかの中将姫の物語を描いた絵巻物が今に伝わります。会場に絵巻が広がる様子は壮観です。
展示風景
當麻寺では、中将姫が二十五菩薩のお迎えを受け極楽浄土へ往生するさまを演じる儀式「練供養」が、1000年以上も前から受け継がれています。写真は練供養で使用された菩薩面です。
菩薩面 奈良・當麻寺
中将姫の物語は芸能の世界で形を変えながら、広く民衆に知られていきます。 世阿弥作といわれる能「當麻」の写本は、応仁の乱後の代表的能作家・金春禅鳳の自筆。 現存最古級の謡本です。
金春禅鳳自筆本「當麻」 東京・野上記念法政大学能楽研究所般若窟文庫
江戸時代になると、人形浄瑠璃や歌舞伎でも中将姫の物語が演じられるようになりました。
文楽人形 中将姫 大阪・国立文楽劇場
驚いたのがこちら、津村順天堂の「中将湯」の広告。あのバスクリンのツムラです。
中将湯は、創業者津村重舎の母方・藤村家に伝来した婦人薬で、継母に捨てられた中将姫が最初に身を寄せた家とも伝わります。飲用の漢方薬として販売された中将湯は、のちに浴用薬として商品化され人気となりました。右側に描かれている女性が中将姫です。
津村順天堂 中将湯引札 茨城・ツムラ漢方記念館
當麻曼荼羅と中将姫を堪能した後は、お隣の東新館会場へどうぞ。 仏像の見分け方をわかりやすく解説した『発見!ほとけさまのかたち』が併催されています。
仏像をスケッチしたり、仏様の着付けをしたり、誰もが楽しみながら仏像のことを学べるように工夫されており、夏休みのこどもたちにもピッタリ。もちろん大人も楽しめる企画展になってますよ。
併催『わくわくびじゅつギャラリー はっけん!ほとけさまのかたち』展示風景
[ 取材・撮影・文:ぴよまるこ / 2022年7月1日 ]
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