アメリカ自然史博物館のロイ・チャップマン・アンドリュース(1884-1960)が、1922年に大規模な調査隊を編成してゴビ砂漠へ探検を開始してからちょうど100年。
地層の中に眠っている化石を探す挑戦者「化石ハンター」の活動や成果を紹介する展覧会が、国立科学博物館で開催中です。
国立科学博物館「化石ハンター展 ~ゴビ砂漠の恐竜とヒマラヤの超大型獣~」会場
ロイ・チャップマン・アンドリュース(1884~1960)は、ウィスコンシン州生まれ。独学で狩猟や剥製製作の技術を身につけ、大学卒業後にアメリカ自然史博物館の館長と直談判して同館に就職しました。
アンドリュースは日本とも縁があり、捕鯨調査のため来日したことがあります。東京国立博物館が帝国博物館だった時代に、所蔵されていた正体不明のクジラの標本を見て、ツチクジラであることを初めて指摘したのはアンドリュースでした。
ただ、そのツチクジラの標本は、戦時中に廃棄されてしまいました。
第1章「伝説の化石ハンターの誕生」
動物学者として活躍していたアンドリュースですが、探検家への道を歩みはじめます。師であるオズボーンが唱えていた「哺乳類や人類の起源がアジアにある」という学説を証明するため、アジアを目指しました。
当時はサイの歯の化石1本しか見つかっていなかったゴビ砂漠に、1922年から1930年にかけ、史上最大とされる中央アジア探検隊を率いて遠征。恐竜の卵をはじめ、古生物学史上重要な化石を数多く発掘しました。
第2章「アンドリュース、ゴビ砂漠への探検!」
アンドリュース率いる「中央アジア探検隊」は1930年にゴビ砂漠を去りますが、世界の化石ハンターたちが後に続きました。
ソ連隊が成果を上げたのに続き、ポーランド・モンゴル隊は女性の恐竜研究者が活躍。1990年代になると、アメリカ自然史博物館もゴビ砂漠に戻ってきました。
第3章「アンドリュースに続け、世界の恐竜ハンター」
ゴビ砂漠で大きな成果をあげたアンドリュースですが、そもそもの目的は、人類の起源につながる哺乳類化石の発見でした。
アンドリュースの挑戦から半世紀以上経って、若き古生物学者・王暁鳴博士が化石産出地を再発見。止まっていた時計の針が動き始めます。
第4章「アンドリュースが追い求めた哺乳類の起源」 史上最大の陸生哺乳類「パラケラテリウム」
ゴビ砂漠でアンドリュースの軌跡に辿りついた王暁鳴博士が、続いて挑んだのはチベット高原。チベット高原は哺乳類進化史において最後の秘境とも言われています。
インド亜大陸の衝突によって隆起したチベット高原は、アジアの環境と生物の進化に大きな影響を与えました。
第5章「挑戦の地、チベット高原へ」
鮮新世(約533万年~約258万年前)には北極より寒冷だったチベット高原。ここは哺乳類が寒冷環境に適応するための訓練の場となり、氷河時代になって各地に放散したとするのが「アウト・オブ・チベット」説です。
王暁鳴博士らは、チベット高原の鮮新世の地層からチベットケサイの頭骨を発見。「アウト・オブ・チベット」説を後押しする、重要な発見です。
第6章「第三極圏の超大型獣に迫る」
第2会場では「次の化石ハンターとなる君へ」のメッセージ。
化石は露出している風化してしまうため、見つけられるかどうかは運も左右します。失敗のリスクを乗り越えて見つかった化石から、動物進化の歴史が解明されていくのです。
第7章「次の化石ハンターとなる君へ」
実はアンドリュースは動物学者だったこともあり、発掘が苦手。あやまって壊してしまうこともあったそうです。
楽しいエピソードは、会場内の「ポイント」で紹介されています。いかにも夏休みらしい、親子向けの展覧会です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年7月15日 ]