うだるような暑さが続く日本の夏。清涼感漂う“水”をモティーフにした日本画や浮世絵、現代作品を紹介する展覧会が、山種美術館ではじまりました。
会場入口に展示されているのは、美術館創設者の山崎種二とも交流の深かった奥村土牛の作品。《鳴門》は絵具を何度も薄く塗り重ね、おおらかで淡い色調の作風が特徴です。
(手前)奥村土牛《鳴門》 1959年
海に囲まれ、降水量の多い日本にとって身近な存在である“水”は、古来、山水画や物語絵など度々主題として扱われてきました。会場では、「雨と霧」「川」「滝」「海」「雪」に分けて水の表現を紹介しています。
「川 ― 流れる水」 展示風景
奥村土牛は、ダイナミックに流れる滝を主題にした作品も残しています。華厳の滝、袋田の滝とともに日本三名瀑の一つとして知られる、和歌山県の那智の滝。少ない色使いで構成された岩肌の間を一気に流れ落ちる白滝は、崇高さが感じられます。
(左から)千住博《ウォーターホール》 1995年 / 奥村土牛《那智》 1958年
「滝」と言えば、千住博の《ウォーターフォール》も見逃せません。NYを拠点に世界的に活躍する千住博が《ウォーターフォール》を初めて紹介したのは1995年のこと。今回展示中の作品は同年の制作です。その後、ヴェネツィアビエンナーレでの名誉賞の受賞で一躍有名になりました。
会場には、5色の鮮やかな色彩で滝を表現した《フォーリングカラーズ》も展示されています。
千住博《フォーリングカラーズ》 2006年
「海」をテーマに黒潮を描いたのは、川端龍子。群青の岩絵具を惜しげもなく使い、波打つ海原でのトビウオの群れをダイナミックに描いています。まるでカメラで一瞬をとらえたような静止画のようでもあり、動きも感じさせる作品です。
川端龍子《黒潮》 1932年
本展で16年ぶりの公開となったのは、石田武の《鳴門海峡》です。動物図鑑などのイラストレーターとして活動した後、日本画に転向した石田は、雄大な自然や動物の姿など写実の中に繊細な詩情を感じさせる作風が特徴。現地に何度も訪れ船上でスケッチを重ねた横幅4.5mの大作です。
(手前)石田武《鳴門海峡》 1992年
「雪」をテーマに風が激しく吹き荒れている情景を描いているのは、川合玉堂の《雪志末久湖畔》です。「志末久」とは「風巻く」を意味します。淡墨を刷くことで画面左の木々を部分的にぼかし、冬の湖畔の激しい風を表した、墨と白色のコントラストが引き立つ作品です。
(左から)日根対山《四季山水図(冬)》 1858年 / 川合玉堂《雪志末久湖畔》 1942年
特集展示では、大河ドラマやアニメで注目を集めている、日本画で描かれた源平の世界を主題とした作品を取り上げています。
源平合戦のなかでも有名な場面を描いている《源平合戦図》。一ノ谷の戦いを描いた右隻では、上方には源義経軍、左方には平敦盛を熊谷直実が追う場面を、左隻では屋島の戦いを中心に壇ノ浦の戦いの一場面が挿入されています。
《源平合戦図》 17世紀(江戸時代)
第2展示室では、安田靫彦の《平泉の義経》を展示。兄・頼朝の挙兵を知った義経が、駿河国黄瀬川に駆けつけることを決意し、陸奥の藤原秀衡に告げる緊張感溢れる場面とみられています。安田靫彦は、岩手の中尊寺金色堂の秀衡のミイラから人物像を試みたと述べています。
安田靫彦《平泉の義経》 1965年
水の恵みと自然の豊さをかんじられる今回の展覧会。入館料が半額となる「夏の学割」も実施をしています。この機会に大学生や高校生も会場で“涼”を感じてみては。
※上記文中と写真の作品は、すべて山種美術館所蔵
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2022年7月11日 ]