エディンバラの中心部に位置するスコットランド国立美術館。1859年の開館以来コレクションは拡充を続け、世界最高峰の美術館の一つといえます。
同館からラファエロ、エル・グレコ、ルーベンス、ベラスケス、レンブラント、ヴァトー、ブーシェ、コロー、スーラ、ルノワールなど、美術史にその名を刻む巨匠(THE GREATS)たちの作品が大挙して来日。東京都美術館で展覧会が開催中です。
東京都美術館「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」会場入口
プロローグは、スコットランド国立美術館の紹介。同館はエディンバラにあるスコティッシュ・ナショナル・ギャラリー、スコティッシュ・ナショナル・ポートレート・ギャラリー、スコティッシュ・ナショナル・ギャラリー・オブ・モダン・アートの3館からなるミュージアムです。
エディンバラで活躍したアーサー・エルウェル・モファットの作品は、1885年のスコットランド国立美術館(現在のスコティッシュ・ナショナル・ギャラリー)を描いたもの。深紅の壁など、展示室の構成は現在も同様です。
アーサー・エルウェル・モファット《スコットランド国立美術館の内部》1885年
第1章は「ルネサンス」。フィレンツェ、ヴェネツィア、ローマを中心に芸術文化が花開いたルネサンス。レオナルド・ダ・ヴィンチの師であるヴェロッキオは、フィレンツェで大規模な工房を運営しました。
ヴェロッキオによるとされる《幼児キリストを礼拝する聖母》の通称である「ラスキンの聖母」は、イギリスの批評家・芸術家のジョン・ラスキンの旧蔵品であった事を示しています。
アンドレア・デル・ヴェロッキオ(帰属)《幼児キリストを礼拝する聖母(「ラスキンの聖母」)》1470年頃
ギリシャに生まれ、ヴェネツィアを経てスペインに定住したのはエル・グレコ。劇的な構図の宗教画で知られます。
《祝福するキリスト(「世界の救い主」)》の衣服に見られる淡青色と深紅色のコントラストも、グレコの作品に良く見られる配色。キリストのポーズにはビザンティン美術やティツィアーノからの影響も見て取れます。
エル・グレコ《祝福するキリスト(「世界の救い主」)》1600年頃
第2章は「バロック」。17世紀のヨーロッパでは、革新的な画家たちが従来の世界観を覆す絵画を描いていきました。
レンブラントによる《ベッドの中の女性》は、聖書の登場人物であるサラが、結婚初夜に夫が悪魔を追い払うのをベッドから見ている場面。サラは過去7回の結婚初夜において、夫が悪魔に殺されています。
いわゆるオランダ絵画黄金時代の中でも、最も重要な作品のひとつです。
レンブラント・ファン・レイン《ベッドの中の女性》1647年
展覧会の白眉といえるのが、ベラスケス《卵を料理する老婆》。食器や食材、老婆と少年の肌や衣服など質感の違いを捉えており、特に卵の白身が固まりつつあるところは見事に描いています。
この時のベラスケスは18歳か19歳。桁外れの実力がよく分かります。
ディエゴ・ベラスケス《卵を料理する老婆》1618年
第3章は「グランド・ツアーの時代」。18世紀のパリでは、幻想的な理想郷を描いた絵画が流行。フランソワ・ブーシェはロココ時代を代表する画家で、宮廷画家として国内外で高く評価されました。
牧歌的な主題の《田園の情景》は、もとは独立した作品でしたが、ブーシェの没後に所有者によって一揃えの作品にされました。
フランソワ・ブーシェ《田園の情景》 (左から)「愛すべきパストラル」1762年 / 「田舎風の贈物」1761年 / 「眠る女庭師」1762年
第4章は「19世紀の開拓者たち」。19世紀の半ばから外光派が、その後には印象派、ポスト印象派など、革命的な画家たちが登場し、絵画の世界に大きな変革がもたらされました。
クロード・モネは印象派を代表する画家。第1回印象派展に出品した《印象、日の出》が、その名の由来になりました。1891年の晩春から秋にかけて、ポプラ並木の作品を23点描いています。
クロード・モネ《エプト川沿いのポプラ並木》1891年 ※東京会場のみ展示
ポール・ゴーガンはポスト印象派の画家。本格的に画家を志したのは30代半ばからと遅く、ブルターニュ地方のポン=タヴェンで、明確な輪郭線、平面的な彩色の「総合主義」を確立しました。
《三人のタヒチ人》は2度目のタヒチ滞在で描かれた作品。果実を持つ女性は、聖書に登場する女性で誘惑するイブのタヒチ版と位置づけられます。
ポール・ゴーガン《三人のタヒチ人》1899年 ※東京会場のみ展示
最後のエピローグは、記念碑的なアメリカ絵画《アメリカ側から見たナイアガラの滝》です。
チャーチはアメリカの風景画家で、この作品はヨーロッパの主要なコレクションに収められた、この画家唯一の大作。スコットランドのつつましい家庭に生まれ、アメリカに渡って財を成した実業家が、母国への感謝の気持ちを込めてスコットランド国立美術館に寄贈した作品です。
フレデリック・エドウィン・チャーチ《アメリカ側から見たナイアガラの滝》1867年
スコットランドにある美術館からの出展という事で、レイバーン、ラムジー、ウィルキー、ダイスなど日本ではなかなか見ることのできないスコットランド出身の代表的な画家たちの名品も展示されています。
西洋美術史を通覧できる、教科書のような展覧会。東京展の後、神戸と北九州に巡回します。会場と会期はこちらです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年4月21日 ]