リニューアル工事のために約1年半にわたって休館していた国立西洋美術館。2022年4月9日から待望の再スタートとなりました。
同館は2016年にユネスコの世界文化遺産に登録された際に、当初の前庭の設計意図が一部失われている、と指摘されています。
今回の工事では、地下にある企画展示室の屋上防水を更新する機会にあわせ、可能な限り前庭を開館時の姿に戻すように改修が進められました。
国立西洋美術館 外観
これまでの国立西洋美術館を覚えている方なら、前庭がすっきりしたように感じるはず。植栽は、最小限に変更されています。
ル・コルビュジエによる当初の設計でも、前庭は植栽が少ないオープンスペースになっていました。
国立西洋美術館 前庭の植栽は最小限に変更されました
柵も透過性のある解放的な意匠に変更。
公園側から彫刻や本館を見渡すことができ、外部との連続性が増しています。
国立西洋美術館 透過性がある意匠に変更された柵
あまり知られていませんが、開館時の正門は西側(上野公園の噴水広場側)にありました。
現在は西側には搬入用のゲートがあるため、そのゲートは残したままで、手前側に出入口を設置。
この入口側から進むと、ル・コルビュジエの設計意図を感じることができます。
国立西洋美術館 西側(上野公園の噴水広場側)に新設された出入口
西側の入口からは、ロダンの《地獄の門》へと一直線に伸びる線と、途中で左に直角に曲がり本館に誘う線がありました。
今回の改修で、この「T字の線」も分かりやすくなりました。
西側の出入り口から「T字の線」は伸びています
「T字の線」に沿って進むと、右手に《考える人》、左手に《カレーの市民》。
ふたつの作品も、当初に近い位置に戻されています。
「T字の線」の先は国立西洋美術館の本館
館内は大きな変更はありませんが、本館「19世紀ホール」の位置付けが変わりました。
本館の中心にある吹き抜けの大空間で、常設展の起点でもある「19世紀ホール」は、これまでは有料エリアでしたが、無料エリアに変更。
ル・コルビュジエがこだわり抜いた建築空間を、気兼ねなく何度でも楽しめるようになりました。
国立西洋美術館 本館「19世紀ホール」
リニューアルオープンと同時に始まる展覧会は、常設展(本館展示室・新館展示室)と、小企画展「調和にむかって:ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジ ― 大成建設コレクションより」(新館 第1展示室)、小企画展「新収蔵版画コレクション展」(新館 版画素描展示室)。
リニューアルオープン記念の展覧会「自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」は、2022年6月4日(土)から開催されます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年4月8日 ]