滋賀県甲賀市にある「やまなみ工房」。アート活動を中心とした福祉事業所で、現在は88名の人たちが陶芸、絵画、刺繍など5部門に分かれ創作活動をしています。各々が独自の方法で表現する作品は、展覧会や、ファッションブランドとのコラボレーションなど多方面において注目されています。
展示風景
その施設の日常を3年間かけて撮り続けたのは、国際的にも評価の高い写真家・川内倫子さん。工房での制作風景や作品、そして日々の何気ない時間をカメラに収めました。それらの写真と工房作家の作品を併せて紹介する「川内倫子とやまなみ工房の風景」展が、現在東大阪市民美術センターで開催中です。
展示風景
展示風景
細かに装飾された立体は、鎌江一美さん作。好きな人がモチーフになっています。刺繍で円を描く河合由美子さんの作品は、縫い重ねることによって平面が立体となっています。
鎌江一美《まさとさん》2012
河合由美子《まる》 奥に見えるのは吉田陸人の作品(タイトル不明)
鉛筆で塗りつぶした背景を描く井上優さんは、70歳になってから絵を始めました。岡元俊雄さんの絵を描くスタイルは、寝転んで肘をつきながら。墨汁をつけた割箸で、大胆でおおらかに描いています。 やまなみ工房施設長の山下完和さんは「それぞれの価値観は異なり、自分の価値観を他人に押しつけることはできない。」とし「その人がその人らしく、穏やかに暮らせるように」を第一に考えていると話します。20名の作家による70点、どの作品の中にも作家の存在を感じる理由が山下さんの言葉によって証明されます。
井上優《かお》2020
作品について説明する「やまなみ工房」施設長の山下完和さん
それらを見守るように展示されているのが川内倫子さんの写真。写真の中の風景は、背景の空の青に溶けていくように穏やかです。制作の様子を捉えた写真と実物の作品はリンクし、臨場感があります。「自分が自分であるだけでいい。」川内さんが本展覧会に寄せた文章からは、やまなみ工房の魅力を肌で感じ取った様子が伝わります。
川内倫子 《無題》(シリーズ「やまなみ」より)
川内倫子 《無題》(シリーズ「やまなみ」より)
川内さんの写真の中の溢れる光は全ての人を優しく平等に照らしています。この当たり前のことが、より当たり前となるように。「共にある」社会について一人一人が(私自身も含めて)考えるきっかけとなりますように。
木村圭吾《電車》(一部)
1階常設スペースには東大阪市内にある作品制作に力を入れる障害者福祉施設の活動を紹介しています。
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2022年2月10日 ]
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