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    国宝 聖林寺十一面観音 三輪山信仰のみほとけ
    奈良国立博物館 | 奈良県

    特別展『国宝 聖林寺十一面観音 ―三輪山信仰のみほとけ』が奈良国立博物館で2月5日よりいよいよ開幕。 「日本彫刻の最高傑作」と謳われる聖林寺十一面観音。東京への初のお出ましを無事に終え、ふるさと奈良へ戻ってきました。



    奈良国立博物館外観


    聖林寺の国宝・十一面観音菩薩立像をはじめ、かつてこの仏像が安置されていた桜井市、大神神社の神宮寺・大御輪寺伝来の仏像が、150年ぶりに一堂に会する展示会です。



    会場エントランス


    開幕に先立ち、聖林寺による法要が行われました。 十一面観音が見守るなか、朝の静かな館内に読経の声が響きます。 観音様はおだやかに輝き、とても神々しい光景となりました。



    聖林寺による法要


    現在は聖林寺に御座す十一面観音ですが、元々は大神神社の神宮寺である大御輪寺のご本尊として祀られていました。 三輪山をご神体とする大神神社は、日本古来の自然信仰を今に伝える最古の神社です。



    三輪山遠景


    大神神社周辺には古代の祭祀遺跡が多く存在します。 山ノ神遺跡から出土した品々は酒造りにかかわる道具とみられ、古墳時代の祭祀に使われていたと考えられています。

    周辺に纏向遺跡や箸墓古墳など大きな遺跡が点在しており、初期ヤマト王権と三輪山信仰の深いかかわりがうかがえます。



    山ノ神遺跡出土品 東京国立博物館蔵 古墳時代 5~6世紀


    三輪山の神は大物主大神。大物主は、疫病を引き起こす恐ろしい神でもあり、正体は大蛇とされています。 古事記には「大国主大神が国造りをしているときに大物主大神があらわれ、国造りを助けるために三輪山に自身をまつらせた」とあります。



    大国主大神立像 大神神社 平安時代 12世紀


    仏教が伝来した当初は「神」か「仏」かの争いがあり、当時、政治の中枢だった大和(奈良)は、その論争の中心地でもありました。 やがて、「神と仏は水と波を言い換えたようなもの。争う対象ではない」という神仏習合の考えに至ります。 大神神社にも神社の中の寺「神宮寺」が建てられ、仏をお祀りするようになりました。



    大般若経 大神神社 平安時代 12世紀


    大神神社の神宮寺である大御輪寺本堂に祀られていたのが、この十一面観音。

    「世の中にこんな美しいものがあるのかと、わたしはただ茫然とみとれていた。」と白洲正子が記した天平彫刻の傑作。



    国宝 十一面観音菩薩立像 聖林寺 奈良時代 8世紀


    「世の音を観る」観音は、声無き心の声も観て救いの手を差し伸べてくださるとされたことから、最も広く信仰される菩薩です。

    美しくもあり厳しさもみせる表情は、まるで何もかも見通しているかのよう。 頭上の11のお顔は現在は8面見ることが出来ます。優しい表情、怒った表情など様々な表情で、「謙虚であれ」とわたしたちを見守ります。



    うしろ姿のシルエットも美しい


    奈良展での見どころは、ガラスケースで囲われることなく、近いところから素のお姿を観ることができるところ。聖林寺でも観音堂の大修理後は、観音様はガラスケースに収められるとのことなので、今回の展示は貴重な機会になりそうです。 のびやかな天平彫刻の魅力をたっぷり堪能しましょう。



    なんとも優美な指先と天衣の柔らかな表現


    光背の断片も残されています。照明に照らされ輝く光背。 これを付けた観音様はどんなに美しかったでしょう。光背をつけた状態の総高は4m近くになると考えられています。



    国宝 十一面観音立像 光背残欠 聖林寺 奈良時代 8世紀


    大御輪寺には十一面観音とともに数体の仏像が安置されていました。 明治初頭の廃仏毀釈によって奈良県内各地の寺院に移されましたので、150年ぶりの再会というわけです。



    日光菩薩立像(手前) 月光菩薩立像(奥) 正暦寺 平安時代 10~11世紀


    明治維新にともなう神仏分離の政策は、「神仏判然令」が各地で拡大解釈されたため政府の目論見以上に激しい廃仏毀釈につながりました。 廃寺になった寺、壊された仏像、興福寺の五重塔も「薪」として25円で売りに出されそうになったといいます。

    大神神社の大御輪寺も例外ではありませんでした。しかし廃寺となった大御輪寺の十一面観音をはじめとする仏像は、それを守ろうとする人々の手で他の寺に預けられ、大切に今日まで伝えられてきました。



    国宝 地蔵菩薩立像 法隆寺 平安時代 9世紀


    少し足を延ばせば十一面観音ゆかりの地を訪れることが出来るのが、奈良での展覧会の楽しみのひとつ。観音様のふるさと、大神神社を訪ねました。



    大神神社 大鳥居


    旧大御輪寺、大直禰子神社。本殿には大神寺創建当初の奈良時代の部材が残っており、国の重要文化財に指定されています。 十一面観音は三輪の大神様のご子孫の大直禰子命(若宮様)とともに、ここに祀られていたのです。



    大直禰子神社(旧大御輪寺)


    十一面観音は疫病をおさめる仏ともいわれます。 「コロナ禍でみなさまに広くご覧いただく機会に恵まれたのもなにかのご縁」と聖林寺の倉本明佳ご住職。

    三輪山の自然信仰と、神仏習合から神仏分離令を経て今日まで人々に守られてきた仏たち。天平の美を間近に体感できるこの機会に、観音様にあなたの声を観ていただきに出かけませんか。


    [ 取材・撮影・文:ぴよまるこ / 2022年2月4日 ]


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    会場
    奈良国立博物館
    会期
    2022年2月5日(土)〜3月27日(日)
    会期終了
    開館時間
    土曜日は、19:00まで(入館は18:30まで)
    休館日
    毎週月曜(休日の場合はその翌日。連休の場合は終了後の翌日)休館日・開館時間は臨時に変更することがあります。
    住所
    〒630-8213 奈良県奈良市登大路町50
    電話 050-5542-8600(ハローダイヤル)
    公式サイト https://tsumugu.yomiuri.co.jp/shorinji2020/
    展覧会詳細 「特別展「国宝 聖林寺十一面観音 ~三輪山信仰のみほとけ~」 」 詳細情報
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