米国ニューヨークにあるメトロポリタン美術館。先史時代から現代まで5000年以上にわたる文化遺産150万点余を所蔵する、世界最大級の美術館です。
同館ヨーロッパ絵画部門に属する所蔵品から、選りすぐりの名画65点(うち46点が日本初公開)を紹介する展覧会が、国立新美術館で開催中です。
2022年 国立新美術館「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」会場入口
展覧会は時代順の3章構成。第1章「信仰とルネサンス」からはじまります。古代ギリシア・ローマの人間中心の文化を理想とみなしたルネサンスは、15世紀から16世紀にヨーロッパ各地で隆盛しました。
フラ・アンジェリコは、初期ルネサンスのイタリアを代表する画家。一点透視図法を用いて三次元空間を表現した最初の画家の一人で、キリストの磔刑場面を描いたこの作品も、空間の奥行きが表現されています。
フラ・アンジェリコ(本名 グイド・ディ・ピエトロ)《キリストの磔刑》1420-23年頃 ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Maitland F. Griggs Collection, Bequest of Maitland F. Griggs, 1943 / 43.98.5
エル・グレコは細長く引き伸ばされた人体描写など、独自の宗教画と肖像画で知られます。
「羊飼いの礼拝」は、エル・グレコが得意とした主題。ドラマティックな明暗表現や大胆な筆遣いなどは、エル・グレコならではといえます。
エル・グレコ《羊飼いの礼拝》1605–10年頃 ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Rogers Fund, 1905 / 05.42
第2章は「絶対主義と啓蒙主義の時代」。17世紀のヨーロッパは君主が主権を掌握する絶対主義体制が強まり、18世紀になると啓蒙思想が隆盛してきます。
カラヴァッジョは、17世紀イタリアの最大の巨匠です。《音楽家たち》は26歳の時の作品で、滑らかな白い肌の若者たちは両性具有的。右から2番目の若者は、カラヴァッジョの自画像と言われています。
カラヴァッジョ(本名 ミケランジェロ・メリージ)《音楽家たち》1597年 ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Rogers Fund, 1952 / 52.81
フェルメールは市民の日常を描いた風俗画が有名ですが、この作品は異例といえる寓意画。晩年に描かれた作品です。
キリストの磔刑の絵画を背に、女性が胸に手を当てる仕草は心のなかの信仰を示し、地球儀を踏む動作はカトリック教会による世界の支配を示唆するものとされています。
ヨハネス・フェルメール《信仰の寓意》1670-72年頃 ニューヨーク、メトロポリタン美術館 The Friedsam Collection, Bequest of Michael Friedsam, 1931 / 32.100.18
第3章は「革命と人々のための芸術」。ヨーロッパ全土に近代化の波が押し寄せた19世紀。市民社会は大きく発展し、絵画の世界にも数々の革新がもたらされました。
絵画史に大きな足跡を残したのが、ポール・セザンヌ。机は傾き、壁は歪んでいるように見えるその作品はあまりにも斬新で、当時の大衆には受け入れられませんでしたが、20世紀初頭の前衛芸術に大きな影響を及ぼしています。
ポール・セザンヌ《リンゴと洋ナシのある静物》1891-92年頃 ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Bequest of Stephen C. Clark, 1960 / 61.101.3
クロード・モネはジヴェルニーの自邸の庭に造った睡蓮の池を約30年間描き続けました。
1915年頃からは「大装飾画」と呼んだ大画面の作品を次々と制作。白内障に侵されていたモネが見た不思議な光景は独特の作品として結実し、抽象表現主義の先駆けとして評価されています。
クロード・モネ《睡蓮》1916–19年 ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Gift of Louise Reinhardt Smith, 1983 / 1983.532
15世紀の初期ルネサンスの絵画から19世紀のポスト印象派まで、誰もが知っている巨匠の作品で西洋絵画の歴史を通覧できる豪華な展覧会です。
コロナの影響もあり、海外の著名美術館から多くの西洋絵画が来日する展覧会は少なくなりました。西洋美術ファンにとっては、垂涎の展覧会といえそうです。公式サイトにもあるように、土日祝日および会期末は日時指定券の事前購入をお勧めします。
※主催の許可を得て特別に撮影しています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年2月8日 ]