展示風景 みうらじゅんさん手書きの挨拶文も
大阪府と京都府の境にある天王山の中腹に位置するアサヒビール大山崎山荘美術館。河井寛次郎、濱田庄司などの作品やモネの《睡蓮》などのコレクション、そして年数回の企画展もさることながら、大正から昭和初期に建てられた「大山崎山荘」(本館)と安藤忠雄が設計した地中館と山手館が醸し出す雰囲気は、他で味わうことはできません。
今年25周年を迎えた同館では、1年を通して記念展を開催。ラストを飾る第3弾は「みうらじゅん マイ遺品展」です。
展示会場でのみうらじゅんさん
ぎっしりと「ゆるキャラ」たち
イラストレーター、エッセイスト、漫画家と幅広く活躍するみうらじゅんさんは、「ゆるキャラ」、「マイブーム」の名付け親でもあります。
会場には、みうらさんが土産物店で買った、ヤシの実を彫ったキャラクター人形やゴムヘビ、観光地にある日付と名前を刻印するメダルなど「マイ遺品」と命名した品々が並びます。彼が長年収集・制作したモノに「なにこれ!?」「実家にあった!」と鑑賞者の反応する声が聞こえてきます。
冷蔵庫3台に「冷マ」
蟹を食べに行くツアーパンフレット「カニパン」
装飾された栓抜き。名づけて「ヘンヌキ」
たまに郵便受けに投函されている水回りの修繕業者の販促チラシ。裏面がマグネットで、冷蔵庫にペタッと貼れることから「冷マ」と名づけられています。冬になると旅行代理店の店頭を赤く染める“蟹を食べに行く”ツアーパンフレットは略して「カニパン」。昆虫や野球少年など模った変な栓抜きを「ヘンヌキ」。これを集めるって…とネガティブな気持ちはネーミングの妙と収集量でかき消され、逆に感心、いや感動へと変わっていきます。
買ってももらってもうれしくない「さむい」モノの存在に気づき、ならば自分が買ってみようと集め始めたみうらさん。今では「民俗学的に収集」し「100年後、これが残っていたら誰かの研究材料となるに違いない」と言います。
笑いを誘う「ヘンヌキ」も、最近では栓抜き自体が珍しい。旅行を申し込むのもインターネット。紙のパンフレットどころか、旅行代理店の数も減り「カニパン」は幻となる日も近いかもしれません。みうらさんの収集品は、地域性、日本文化、時代を映し出しています。今あるモノたちは、今を表しているのです。
「飛び出し坊や」の進化をみることができる
展示風景
本展担当・川井遊木学芸員の「民藝運動の創始者柳宗悦が、それまで価値を見出されなかった日用雑器を集めてその価値を知らしめようと運動を展開しました。みうらじゅんさんがゆるキャラなど、誰も気づかなかった魅力を発見し、それらを広める活動は柳に通じるのでは」との解説は、重厚感ある室内とマイ遺品の意外なしっくり感と重なり、なるほどと興味をそそります。
マイ遺品の100年後に思いを巡らせつつ、原点となるのは、自分の価値観を信用するということ。この大きな価値にグッとなるのでした。
展示について話すみうらじゅんさん
2階の喫茶室ではみうらじゅんさんによるイラストの焼印入りどら焼き(数量限定)もぜひ
みうらさんがデザインしたゆるキャラたち
美術館の庭園には5体のみうらじゅん飛び出し坊やが
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2021年12月18日 ]
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