奈良・奥大和で開催されている「MIND TRAIL」。歩くことがコンセプトという、ちょっと珍しい芸術祭に、今年も参加してきました(昨年のレポートはこちら)。
1日目 奈良県 天川村
初日は天川村へ。洞川温泉センターからスタートし、約6kmを3時間かけて歩きます。
最初の作品は《千本のひげ根》。3つのエリアとも、道中の杖代わりになるこの作品から始まります。
菊池宏子+林敬庸《千本のひげ根》
まず目にとまったのが、大原山展望台に設けられた作品。小屋の中央に水盤があり、水差しで水を注ぎながら水盤に映る景色の変化を楽しみます。
ちょうど紅葉も色づいていた事もあり、とても贅沢な時間を過ごせたように思いました。全体を通しても、一番印象深かった作品かもしれません。
上野千蔵《「うつしき」 - いけみず -》
清流にかかる橋にあった布の作品を手掛けたのも、先ほどと同じ上野千蔵です。上野はCMなどで活躍している映像作家・撮影監督で、美術家ではないにも関わらず、芸術祭への取り組みは見事です。
上野千蔵《「うつしき」 - みずいろ -》
ルートの途中に「森の中の図書館」があるのも、昨年と同様です。ポストの中には、参加アーティストなどがセレクトした本が入っています。
ポストに添えられているQRコードで鍵のナンバーを読み取ると、ポストを開けて本を見る事ができます。
森の中の図書館
森の中にある木製ベッドの作品は、上に寝る事も可能です。仰向けに寝てみると、清流の音と木漏れ日に包まれました。
山田悠《Interrupter》
2日目 奈良県 曽爾村
2日目は曽爾村役場からスタート。10.4kmで約6時間と、3エリア中最長のコースです。
スタート近くの案内所では電動アシスト付き自転車のレンタルもあり、利用すれば2時間程度で回れると聞きましたが、ここは初志貫徹。徒歩でスタートしました。
曽爾村役場
コースの各所に掲げられた写真作品は、石ではなく、曽爾村の地面に落ちている砂粒を顕微鏡で撮影したもの。
その砂を拾った場所で、展示されているそうです。
岡田将《無価値の価値》
コース上にある屛風谷公苑は、岩壁が屛風のようにそびえる名所。ここには多くの作品が展示されています。
白や黒の糸状の樹脂?でつくられた作品は、広い公園内での繊細な表現ですが、印象に残りました。
小松原智史《コマノエ》
カンナ屑でつくられた大きな作品も、屛風谷公苑にある作品。
作者の西岡潔は吉野町在住の写真家・アーティストで、今回の曽爾をまとめるエリアキュレーターでもあります。
西岡潔《名前はまだない》
こちらは影絵のような作品。背面にある植物の影が半透明のパネルに映り、影絵の形がポスターになります。
天気が良ければ美しいポスターになると思いますが、残念ながら、やや曇ってしまいました。
長岡綾子《Ever Changing Poster》
3日目 奈良県 吉野町
最終日は、やや筋肉痛が残る中、8km・5時間の旅に出かけます。スタートは近鉄吉野駅からだいぶ登った場所にある下千本駐車場です。
近鉄吉野駅
コース各所にあるのは、木のフレームでできたピラミッド型の構造体。
「この作品に必要以上に意識を向けないで下さい。足を進めましょう」という作品解説(QRコードで読めます)に促されるように、先に進みます。
三原聡一郎《小さな観測所》
山の中には、大きな顔の作品。吉野の林業からの着想したものです。
吉野の杉は年輪が細かくて均一、住宅や家具の建材として幅広く利用されています。
力石咲《吉野杉が住む空間に帰ってきた 先人とともに子孫の成長を見上げてみる》。
すぐ近くにあるこちらは、吉野、天川、曽爾で集めた古着をパッチワークにしたもの。
服は一人用ですが、つなぐことにより自分の境界が拡張され、他者や自然に近づけるのでは、という発想です。
西尾美也《人間の家》
展覧会の最後は、プロデューサーの齋藤精一による作品。
地域固有の軸となる歴史や事象、伝説などを光線によって可視化させる『JIKU』シリーズで、今回は3つのエリアから、全て大峰山に向けて照射しています。
齋藤精一《JIKU #006 YOSHINO》
これで全行程制覇。同じ作品が多いのは少し気になりましたが、なんといっても美しい自然の中で見るアート鑑賞は格別です。
途中で食事をするところがあまりないので、飲み物だけでなく、軽食を持参した方が良いと思います。
天川村
曽爾村
吉野町
なお、今回は大阪に泊まりました。2日目の曽爾はレンタカーで行きましたが、天川と吉野は近鉄を利用し、天川から帰路(下市口→大阪阿部野橋)と、吉野への往路(大阪阿部野橋→近鉄吉野)は、近鉄が誇る豪華特急「青のシンフォニー」に乗りました。
ゴージャスな車両ですが、特急料金にわずか210円プラスするだけと、超オススメです。売り切れ必須なので、事前予約をお忘れなく(乗車の2週間前からネットで予約できます)。
青のシンフォニー 外観
青のシンフォニー 車内
動画もまとめましたので、ご覧ください。
[ 取材・撮影・文:M.F. / 2021年11月5日~7日 ]
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