秋風吹き、木々が色づき始めた京都で一風変わった視点から迫る美術展を訪ねました。特別展「虫めづる日本の美 ― 養老孟司×細見コレクション ―」です。
ベストセラー著書『バカの壁』でおなじみの養老孟司氏は、解剖学者そして昆虫学者でもあります。虫たちの“小さき世界”を探究し、愛ある視線を送る毎日をお過ごしのようです。
そんな虫博士が問いかけた「自然とは何か?」をテーマに、細見美術館のコレクションから養老先生のセレクトでの企画展が始まりました。

細見美術館開催の特別展へ

養老孟司氏は無類の昆虫愛好家
まずは養老先生が世界各地を訪れて採集した昆虫たちにスポットがあたります。先生が制作した“ホウセキゾウムシ”の実物標本には、その名のとおり美しい虫たちが並んでいます。宝石のショーケースのようですが同じポーズでもよく見るとどこか違い、虫たちの個性ある生命を感じます。更に先生所蔵の、虫をモチーフとした高蒔絵の合子などが並びます。
そしてちょっと驚きの2D、3Dのデジタルマイクロコラージュの技術によって表現された作品も紹介されています。どこか怪獣の絵のようですが、肉眼では見られない細部の構造を可視化した世界は凄い迫力です。

実物標本 ホウセキゾウムシ ニューギニア 制作・所蔵 養老孟司

(左から)実物標本 甲虫 制作・所蔵 小檜山賢二 / 2Dデジタルマイクロコラージュ 制作・撮影 小檜山賢二

おさむしの合子 分島徹人作 養老孟司所蔵
そしてそれらに呼応するのが細見コレクションより選ばれた虫を表した絵画や工芸作品です。季節に応じ、懸命に生きるちいさな虫たちを精密に写し描くもの、特徴をみのがさず超絶技巧で立体的に写すもの、その観察眼には驚きを隠せません。脚の節々、翅の光沢などまさに生きているかのようです。
伊藤若冲作《糸瓜群虫図》には実に11匹の生き物が描かれています。《四季草花草虫図屛風》にはあでやかな色彩の植物の間を舞う蝶などが動きを感じさせます。《秋草虫蒔絵螺鈿小箱》は様々な素材で立体的に表現しており、一層豪華な装飾となっています。
観察力と表現力の一体化で現わされる芸術。小さな自然界を愛情をもって捉えています。展示作品に対する先生のコメントが添えられ、もう一歩深く考えることができます。

《糸瓜群虫図》伊藤若冲 江戸中期

細見コレクションの展示風景

《蝶千種》神坂雪佳 昭和49年 初版明治37年

《秋草虫蒔絵螺鈿小箱》 江戸中期

《四季草花草虫図屛風》江戸後期

《四季草花草虫図屛風》(部分)江戸後期

養老先生によるコメント付きの展示風景
養老先生や美術品作者たちも小さな生き物たちが育む不思議な世界に関心を寄せ、共に生物として生きる共存の技を学んでいるのかもしれません。あらゆる自然の変化に適応し進化する虫たちは、いろんなことを教えてくれているのではないでしょうか?
今回のような企画に対して養老先生は、「このような視点からアートとして取り上げられたことを嬉しく思う」ということと、「虫たちが住みにくい環境へと変化している現在を厳しく受け止めて注意しなければならない」とメッセージされていました。

養老孟司氏と自筆による「虫塚」の額 茶室 古香庵にて
私達は今、花の蜜を求めてふわりふわり漂う蝶や、夏に懸命に鳴く蝉、列になって歩く大きな蟻などをゆっくり観察することが少なくなりました。古来、自然に親しんできたアーティストの作品を見ることで、生活の豊かさを感じることを大切にしたいと思う機会に出会えた時間でした。
細見美術館は京都岡崎の文化集合エリアにあります。京都の代表的美術館や芸術発信の場がひしめき常に賑わっています。少々小さな美術館ではありますがコレクションは秀逸、名作と出会える信頼感があります。秋冬をまたぐ会期となっていますので京都の美しい風景と一緒にお楽しみいただきたいです。
夕陽を眩しく思いながら三条通りを鴨川方面へ、創業20年を超えて地元に愛される「ル・パレ・グルマン・スギモト」のマロンケーキでほっこりした秋時間を過ごしました。

3階茶室古香庵前から望む風景

秋といえばマロンロール!
※茶室 古香庵での特別展示は会期中、不定期で公開予定。(公開日は細見美術館Twitterにて告知予定。)
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2021年10月28日 ]
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