コスチューム・アーティストとして、30年以上第一線で活躍している、ひびのこづえの作品を紹介する展覧会が横浜のそごう美術館で開催中です。
演劇や映画、テレビでも使用される衣装など、様々な作品を手がけてきたひびの。展覧会では、その一部になりますが、世界観に浸ることができる空間が広がっています。

会場入口
大きなカエルのバルーンに出迎えられて会場入口を通ると、“巨大な生き物の森”に入っていきます。展覧会タイトル「森に棲む服」の通り、森の中で様々な洋服に出会う会場になっています。
黒い布に刺繍されたキリンやコウモリ、ウサギなどの動物たち。2005年鯖江国民文化祭で使用したものですが、その後倉庫に眠っていたため動物の刺繍を施したもの。もう一度服に仕立てたいという願いをこめて制作されたものです。

服だった布
“ARで動く森”では、顔にQRコードがついた12体のマネキンが整列しています。QRコードを読み込むと、東京オリンピックの閉会式にも出演した、ダンサーのアオイヤマダさんが服と一緒に楽しく動きだしました。
服の良さは、着てもらい動いてもらう事で1番わかるもの。服を展示するだけとなってしまう展覧会を残念に感じていたことから作られた素敵な企画です。

ARで服が動く森
今年上演された「フェイクスピア」の舞台衣装を紹介したコーナーは、「自分のプランを信じて」。
コロナ禍で劇場が閉まる中で、演出家・野田秀樹が芸術活動を継続するために紛争した渾身の一作。何度も描き直してつくられた衣装やコーナーのタイトルから、舞台を開催させることへの強い情熱が感じられました。

自分のプランを信じて
大きな石を積み上げて作られた遺跡も植物の力によって吸収されることを表しているのは、“消える服”。実際に植物を縫い付けた布は、赤いラインを裁断すると、新しいワンピースへ再生することもできます。作品のタイトルや解説を読むことで、作品それぞれのストーリーも分かるのも、この展覧会の面白さです。

消える服
“試着の森”に現れるのは、大きな青いドレス。ヘリウムが入った服は、衣装を着て体験すること想定して作られた洋服たちです。コロナの状況で残念ながら試着はできませんが、空へ飛んでいく姿を想像しながら楽しむことができます。

試着の森
“パフォーマンスの森”に足を進めると、演劇や映画、テレビの衣装などこれまで手がけた作品が、ところ狭しと紹介されています。

パフォーマンスの森
それぞれの作品の解説を読んでみると、ひびの本人の仕事に対する想いが伝わってきます。
歳を取ってから挑戦したのは、自らが衣装アイデアを考え、音楽家やパフォーマンに依頼していて作品を作ることでした。苦手意識のあるコミュニケーションを取ることを克服するように、自分の信じたコラボレーションを行いトライをし続けているひびの。“大きな冒険”だったいう、挑戦をした衣装に出会いうことができます。

パフォーマンスの森

パフォーマンスの森
印象に残った作品は、2017年の舞台「不思議の国のアリス」の衣装です。主人公のアリスや宙を回転する女王、チェシャ猫やトランプ兵などキャラクターの衣装だけでなく、カーペットの色や鏡の装飾からも物語を感じさせる不思議な空間です。

私の宝物
不思議の国のアリスの絵本の装丁が大好きでだったいうひびの。キャラクターだけでなく、それぞれの演者に合わせてできあがった衣装たちは、“私の宝物”と付けられたタイトルの通り、大切な舞台であったことが分かります。

私の宝物
会場の最後に飾られているのは“バックの森”。衣装を作った際の残った生地や解体してできたバックは、購入も可能です。通常、美術館はギャラリーと違い作品の販売は行っていません。しかし、展覧会は見るだけでなく感じて触れてもらいたい、という思いが実現したそうで、肩にかけて鏡で見ながら吟味することができます。

バックの森
鮮やかでエネルギッシュな衣装たちが並んだ「ひびのこづえ」展。QRコードやバックの販売など、こんな時期だからこそ考えられた演出にもワクワクさせられました。 来年、またその先に生まれる新作も楽しみです。
[ 取材・撮影・文:P. K-KO / 2021年9月17日 ]
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