3万件にも及ぶ東京藝術大学のコレクションの中から、千年以上前にアジア大陸から伝来した器楽や舞を意味する"雅楽"を用いた作品を紹介する展覧会がはじまりました。
入口で出迎えてくれるのは、総高が280cmを超える《伎芸天》です。伎芸天は、美術や芸能などの上達の守護神として仏教で信仰された天女のこと。10年ぶりとなった今回の展示では、背中から腰回りにかけて緻密に描かれる鮮やかな文様もじっくり鑑賞することができます。
(左から)巨勢小石《伎芸天女》 / 竹内久一《伎芸天》
会場中央に足を進めると、色鮮やかな舞楽の装束が目に入ります。舞楽は、平安時代にアジア大陸から伝わった器楽と舞を大成させたもの。演目に応じて意匠を凝らした装束や個性豊かな面、武具を身に着けて舞います。
装束の色は、中国から伝来した唐楽は赤を基調とし、朝鮮半島より伝来した高麗楽は緑を基調としています。会場には、東京藝術大学の前身である東京美術学校時に使用された胡蝶と陵王も展示されています。
舞楽の装束
修復した作品の記念展示も、今回の展覧会の見どころのひとつ。 その1つは、大和絵の絵師・土佐光信が原作を制作したと言われている《舞楽屏風》です。
初披露となるこの作品には、「陵王」「納曾利」「貴徳」「散手」といった舞楽の演目23種類が12枚の紙面に描かれています。墨の描線による楽人や色彩鮮やかな舞楽、色付けのされていない無色のものなど、描き方の違いも堪能できます。
土佐光信 伝原作《舞楽屛風》 模本作品 制作年・制作者不詳
2つ目は、小林古径の師でもある山田於莵三郎が卒業制作として提出した作品。1893年のシカゴ・コロンブス万博博覧会にも出展された作品で、琵琶と舞楽図のある衝立がみらる江戸時代の室内装飾を描いた図案です。
(手前)山田於莵三郎《徳川式室内装飾》 1893年
会場の一番奥に特別出品されたのは、1916年に制作された昭和天皇立太子礼奉祝記念《御飾時計》。時計の上部にあしらわれた舞楽の童舞人形が15分ごとに太鼓をたたき、文字盤の横の鳩が羽を広げながら鳴く絡繰りになっています。会場では、3年がかりで修復を行った詳細も知ることができます。
昭和天皇立太子礼奉祝記念《御飾時計》
雅楽に馴染みの薄い方も、神社や寺院の行事や結婚式で楽器の音色を耳にした方は多いのではないでしょうか。明治以前に制作された琵琶や太鼓、笛も紹介。打楽器、管楽器、絃楽器の合奏を"管絃"と呼び、これらは漢詩や和歌を詠み奏楽する際に用いられます。
雅楽の楽器
美術館の開館以来初めて、芸能や音楽に特化した藝大コレクションを紹介することとなった今回の展覧会。会場は展示室1のみですが、雅楽の魅力と夏を感じさせる名品も満喫することができます。事前予約は不要ですが、会期が短いのでお早めに来館ください。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2021年7月21日 ]